暁光の王と黄昏の刻

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 あの後、各方面から叱責の言葉を受け、自室での謹慎を申し付けられたことは今でも苦い思い出だ。演説内容のせいで大臣たちから目の敵にされ、現王政にあまり関われない立場となってしまったのは否めない。それでも、予め用意された意にそぐわない言葉を国民に聞かすことだけはしたくなかった。今であればやりようというものを考えるのであろうが、反抗心に溢れた十六歳の自分にはそれができなかった。 「あの殿下の演説を聞いたとき、それが現王政にとって望まれたものではないことは分かっておりました。それでも、あの場でそれを口にする貴方の姿に感銘をうけたものです」 「……何も、考えていなかっただけだ」  後先のことなど考えず、目先の正しさだけを考えた行為だと、思っていた。否、思うべきだと考えていた。 「それでも、演説に向かう貴方の覚悟を決めたようなお姿を、忘れたことはありません」  自分の言葉が誰かに届いていたということに、今までのことが報われたような気さえして、ルクスは静かに瞼を濡らす。一番届いて欲しい相手に、自身の本心が届いていたのだ。嬉しくないはずがなかった。 「大変恐れながら……、私の忠誠は国家に向けているのではありません。あの時より、私の忠誠は貴方だけのものです」  思っても見なかった言葉にルクスの心は震える。熱に浮かされるこの身が幻聴を聞かせたのかと思うほどに、信じられなかった。思わず握り締めた布の間から、清涼感のある香りが鼻腔へと届く。ほんの僅かに冴えた頭に、クレインの言葉が再び届き始めた。 「私だけではない。貧民出の騎士らの多くがあの演説に心を打たれ、貴方への忠誠を誓っております。……ただ、今は現王政に疲弊し、それを忘れている者も多くいるのが現状です。貴方の背に守られたことが、その忠義を思い出すきっかけになればよいのですが……」
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