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ペンよりも剣を握ることを好んでいた少年を、机に縛り付けたのは他でもないテオラメント自身であった。そのことに良心が少しばかり痛む。「剣だけで国はなりたたない」と彼に言い聞かせたのは、もう随分と昔のことだ。せめてもの慰めになればと、テオラメントは新たな紅茶を淹れるため、その場を後にした。
翌朝、薄汚れた麻の服を纏ったルクスを前に、テオラメントは恭しく一礼をした。顔を上げて目の前の主の顔を見れば、昨日同様、その面持ちは険しかった。
「お楽しみにしていらっしゃるわりには、お顔が優れませんね」
テオラメントの言葉にルクスが苦笑を零す。遊びにいっているわけではないのだが……、と苦々しく呟く主に、テオラメントは複雑な心中だ。城の外を知れると喜んでいた頃が懐かしい。
「いってくる」
その言葉にテオラメントが再度一礼をして主を送り出した。開かれた岩壁の中にその背が消えるまで、テオラメントは頭を垂れ続ける。侭ならない現実を突きつけることを謝罪するかのように。
ルクスが普段通りに平民街にある食堂に辿り着けば、出入り口にはノルマとばかりに籠いっぱいの芋が置かれていた。それをさも当然とばかりにルクスは持ち上げると、勝手口を出て傍に誂えられたベンチへと腰掛ける。風雨に晒され、ろくに整備もされていないベンチはほんの少しでも体重をかければ嫌な声をあげて軋むが、毎朝のことなのでルクスはすでに慣れてしまった。今では朝の挨拶くらにしか思ってはいないが、最初の頃は恐る恐る座っていたものだった。籠の中から小ぶりな芋を一つとると、腰に備えた小型のナイフで皮を剥いてゆく。さほど大きい芋など手に入らないので、無駄にしないように薄く、薄く剥いていく。厚く剥きすぎたせいで店主から怒られることは今ではもうない。手に傷をつくることも滅多になくなった。手慣れた手つきで芋を剥いている最中、考えることは昨日と同様のことであった。
貧民と平民を何者かが扇動している。
何の為に、という疑問はない。対象を考えれば、現状の改善の他ない。貴族ばかりが優遇されていることは、周知の事実なのだ。知らぬ者は、不自由のない生活を送る人間のほんの一握りだ。そのうちの一人にルクスが含まれていたことが、今や悔やまれる。
疑問を向けるべきは、誰がそれを行っているのか、ということだ。
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