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現王政の転覆を狙うにしたところで、甘い汁を吸う貴族連中ではないだろう。まだ、吸える蜜があるうちは行動を起こすとは考え難い。
平民や貧民を束ねられるリーダー格の人間か、他国の人間という説も考えられる。
かつて炎の大精霊の加護をうけ、全ての奇跡の集う箇所とまで謳われた大国リアマンメレナ、今でこそその輝きは翳りをみせてはいるが他国にひけをとらない国土を保ち続けている。その国土を我が物にせんとする他国が、間諜を忍ばせていたとしても不思議ではない。
国家間で懸念としてあがるのは近年、勢力を伸ばしているエルカディオ帝国だ。すでにいくつかの国が武力によって屈服させられている。自国にその牙を向けるのは時間の問題だろう。
国の内外に問題を抱え、思わず重い溜息を零す。一国の世継ぎが、身分を偽って芋の皮むきをしている場合ではないことは重々承知しているつもりだ。だが、自分の手足となって動かせる人間は一握りだ。自ら動かねばならないほど、王城でのルクスの立場は弱い。信念を持って、自国の為に動いている自信はある。だが、それでも侭ならない現実に不安にならないわけではなかった。
全ての芋を剥き終え泥を濯ぐと、それを厨房へと運ぶ。厨房では店主が料理の下ごしらえをしていた。
はっきりといって、店主の料理の腕はいい。どんなに粗末な素材であっても、たちまち絶品の料理に変えてしまう。王城で出される豪華な料理に慣れているルクスですら、その料理の美味さに唸るほどだ。
厨房から漂う香りに、ルクスの腹が小さく声を上げた。その音を聞き逃さず、店主は呆れたような視線を一国の世継ぎに投げる。
「お前は向こうでたらふく食ってきただろうが」
恥じるような顔をするルクスに向かって、その正体を知ってなお、ぞんざいな物言いを店主はする。それにルクスは不敬だとは決して思わない。むしろありがたいとすら思っていた。そうやって接してくれたほうが、自分が今、ルクスという一国の世継ぎではなく、アウルというこの国に生きるただの平民なのだと、そう思えるからだ。
「だって、うまそうなんだもん」
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