暁光の王と黄昏の刻

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 首を傾げて、これまで数回しか呼んだことのない名を呼ぶ。どうしてか、彼の名を呼ぶのに酷く緊張してしまっているのが原因だ。 「いや……、なんでもない」  アウルの呼び声にクレインはそう答えるものの、顔色は優れなかった。 「大丈夫か? もしかして疲れてる?」  脳内で城にいるテオラメントに騎士たちの訓練内容の洗い出しを頼むかどうか考えていれば、クレインが否定の声をあげた。 「そ、そうではないんだ……。ただ、ジレットのことで気がかりが」  ジレットはよく食堂へクレインとともに訪れる騎士だ。アウルとも何度か話したことがある。クレインと同じく貧民の出であり、二人が親しげに話す様子をアウルは王城でも見ていた。 「そういえば最近はジレットと一緒じゃないな」  最近はクレイン一人で訪れることが多く、食堂で注文の合間に三人で戯れていたのが懐かしくも感じる。 「ジレットの妹が病気で倒れてな。それから看病で付きっきりだ」 「……大丈夫なのか?」  心痛な面持ちのクレインは、アウルの問いに困ったように首を振った。クレインにそんなことが分かるわけがないのだ。  ジレット本人から、世間話程度に妹のことは聞いていた。元来、体が弱く一年の殆どをベッドの上で過ごしていると。ジレットから頼まれて、簡単な食事を持ち帰り用に提供したことだってある。両親と早くに死別し、自分がしっかりしなければと騎士となったジレットを、アウルは少し尊敬していた。 「教会で様子を見てもらっているようなのだが、容体は良くはならないらしい。この後、様子を見に行こうと思っているのだが――」 「俺も行く」  思わず吐いて出た言葉に、クレインが目を丸くした。 「しかし――」 「俺だって心配だし……」  その言葉に嘘はない。よくクレインの口から登っていたジレットの妹のことは、まったくの他人とは思えない。できることがあるならば、助けになりたいと思うほどに。
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