暁光の王と黄昏の刻

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 元来、騎士というものは貴族の生まれの者にのみ許された地位だった。それを先王が即位した際に、生まれを問わず騎士になれるよう計らったのだ。それにより有能な騎士は増え、国力も増大した。貧民や平民上がりの騎士といえど、国への功績を認められれば給金は跳ね上がる。貧民や平民の生まれでも、カフェやサロンに入り浸る人間をアウルはいくらか知っている。  金を持って変わる人間もいれば、変わらない人間もいるということだ。この騎士は後者なのだろう。  騎士を見た客たちの反応から分かる通り、この騎士は貧民や平民たちにとって英雄的存在だ。以前の御前試合にて、会場を大いに沸かせた張本人である。薔薇の騎士と謳われ、国民的人気を誇る騎士と対峙し互角に渡り合ってみせたのだ。他の騎士団長すら敵わないと言われる薔薇の騎士を目当てに来た観衆すら、食らいつかんとするこの騎士の剣技に魅せられていた。アウルもまた、そのうちの一人だ。惜しくも薔薇の騎士に一歩及ばず、膝をついてしまった騎士に向けられたのは賞賛だった。数多の拍手が彼に送られ、現国王もその健闘を讃えたほどだ。たった一度の試合で、彼は貧民たちに夢を与える存在となったのだ。だからといって、この騎士はそれを傲るような振る舞いは一切みせず、ただ普段通り自分に与えられた騎士としての職務を全うせんとしている。  アウル自身、御前試合の内容を抜きにしても、騎士の朴訥とした雰囲気は十分魅力的だと感じていた。誠実さが立ち振る舞いから滲みでているといっても、過言ではないだろう。  騎士からの注文を受けて、厨房に引き上げてもなお、アウルの視線は騎士のほうへと注がれる。何人かの客が声をかけて、共に杯を重ねたり、笑いあうのをただ端から見ていた。
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