51人が本棚に入れています
本棚に追加
「もしかして他の騎士とご一緒でした? あ、まさかまた他の客たちの勢いに圧されて、ろくすっぽ会話もできずに引き上げてきたんですか? なんでまた肝心なときに遠慮してしまうんでしょうね、うちの王子様は」
「うるさいぞ」
図星を突かれてしまい、ルクスは苦笑をこぼす他ない。自分の主人に悪態をつかれてなお、テオラメントは口を噤むことはしなかった。
「今ではかの騎士は人気者ですし、仕方がない気はしますが……。もう少し粘ってもよかったんですよ」
「そうもいくまい」
教会の鐘が鳴れば王城へと戻る。それがテオラメントと交わした約束だった。そして、王族として成すべきことがある以上、ないがしろにすることはできない。加えて、この国には懸念が多すぎる。それは、ルクスが王城を出て初めて感じたことだった。貧富の格差、不正輸出、賄賂による治安悪化。王城で安穏と暮らしていたままであったならば、無縁であったであろうことばかりだ。
現王である父に国の現状をいくら訴えかけたところで解決する目処は立たず、余計な気は回さなくてもよいと咎められたことすらある。王政を担っている大臣たちにすら、王子はまだお若くていらっしゃるので、といった侮りとも取れる言葉をかけられる。この王城に、自分の味方となる人間の少なさを痛感させられた。だからといって、諦めることなどできず、こうして自分のできる範囲での問題解決にルクスは努めていた。はじめこそ、興味本位ではじめた王城からの脱走であったが、今ではルクスにとってなくてはならない社会経験とすら言える。
何より一番の助けになったのは、側近であるテオラメントだった。城の外を見てみたいといったテオラメントにあっさりと「いいんじゃないですか」と言ってのけたのだ。反対されるとばかり思っていたルクスは拍子抜けしたものだ。そうこうしているうちにテオラメントは着々と準備を整えてしまった。そして、人目を忍んで城を出た先は、華やかな表側とは正反対な王都の裏側だ。その日を暮らすのがやっとだという人たちが身を寄せ合って過ごしているさまは、ルクスにとって衝撃的だった。
「あなたにきっと、必要だと思って」
後にルクスが何故と問うたとき、そうテオラメントは答えたのだ。あのときのことを考えれば、感謝しかない。
最初のコメントを投稿しよう!