溺れ咲き

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「もっと、もっと、もっと」 「俺の事が好きかい」 桜井が言う。 「好きだ、好き、だ。ああ、ああ」 俺は恥も外聞もなく桜井に縋り付いた。俺はこいつが好きだとか、そんな事を真剣に考えていたわけではない。ただ、俺が欲しがっていた、口から手が出るくらいに欲していた快楽の使者を手放したくなかっただけだが、桜井はどうやら俺が好きなようだった。嬉しげにまたキスをする。俺はと言えば、だらしなくヨダレを垂らしてあーあー、いいーいいーと狂人のように口走っていただけなのに、桜井もまた充足した。熱い液体が俺の中を汚す。桜井は俺の中から自分の逸物を引き抜き、粘液にまみれたそれを俺の口先に近付けた。当然俺はむしゃぶりつく。びちゃびちゃと音を立てて舐める。すると少し経って、桜井は俺の口から肉棒を取り返すと、桜井は俺の額、目、口に満遍なく降りかかるように精液を撒き散らした。 俺は舌を出して受け止める。 ああ、これ、これ。 俺はごくんと精液を飲み込み、唇に垂れているものすら残さないようにベロベロと舐めとった。 ああ、これ、これ。 まだまだ、欲しい。これがもっと、もっと、欲しい。太いのが、欲しい。おっぱいも触って?あそこももっといぢめて? もっと、もっと。 俺の枯渇していたと思った欲望が溢れ出してくる。 「まだまだ、まだまだ」 桜井は俺をもっと楽しませる気のようだった。 例えて言うなら、俺と桜井は共犯者だった。 何気ない顔をして俺は家族と過ごし、事務所で何事もないように仕事を済ませ、商談に行くと言っては桜井のオフィスやビジネスホテルでやりまくった。一日たりと、情事のことを考えないときはなかった。俺の48年間、苦労して積み上げた一切は、一時の快楽より軽かったのだ。 「随分、淫らになった」 一戦交えた所で休憩している俺達は、横になっていちゃいちゃしているのだ。俺はおかげさんで、と笑ってやった。 「しかし、俺は少しあなたと会うのが減るかもしれないよ」 「どうしてだ」 「うん、会社で一悶着あってね。…三年前にリゾートホテルを建設した時、少々強引な手を使って土地を手に入れた。金はくれてやったのに、納得しない住民達に訴訟を起こされてしまってね」 「勝てるのか」 「勝てるさ。相手は田舎弁護士、こちらは一流の弁護士団だ。勝てる訳があるまい」 「そうか、がんばってやってくれ」 「もちろんさ。早く済まさなければ、お前が我慢できなくなってしまうだろう?」 「そうだ。俺を離すな。こんなに淫乱になってしまった俺を」 「離さないよ。俺は貴方と一心同体だ」 俺は奴にすがりつく。 なにもかも振り落としてしがみつく。 抱かれていないと気がおかしくなりそうだった。 この世の全てが桜井になった。 こいつだけいれば、なにもいらなくなった。 しかし俺だけなんだろう。 桜井は違うのだろう。 そう思うたびにまたムラムラとする。 ああ、あ、あああ。 俺にもこんな感情があったのかあ。 溺れ溺れて沈み込んじまうよう。 こいつだけ欲しいよう。 闇の中に引きずり込まれて なにか、開いた。
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