10人が本棚に入れています
本棚に追加
この想いを届けたいから
私は来た道を全速力で走った。カフェまで戻ったけど、藤堂さんの姿は見つからない。
なぜかもう会えないんじゃないかという思いが頭をよぎる。
「藤堂さん……」
目からつぅーっと滴が零れた。
あんな風に突然いなくなっちゃったし、怒ってるかも……いや、怒って当然なことしちゃったんだ。嫌われても、仕方がない気がする。
――嫌だ、あの人に嫌われるなんて、絶対に嫌だ!
不安と恐怖に押しつぶされそうになったそのとき。
「明日香ちゃん!」
そう声が聞こえるやいなや、後ろから強く抱きしめられる。突然の出来事に思わず固まってしまった。
「明日香ちゃん……よかった。急に男と走って行ったから……。俺すごく焦ったんだよ」
「ごめん……なさい」
「あれってもしかして彼氏?」
「違います!」
ぱっと振り返って言う。違う、私が好きなのは――。
言おうとして、口をつぐむ。そんなことを言う勇気は、私にはまだないみたいだ。
「よかった……。あのね、明日香ちゃん」
藤堂さんは真面目な顔になった。
「俺ね、明日香ちゃんより10歳以上も年が上だし、こんなこと言っても君を困らせるだけだから、ずっと自分の中で押し殺してた。でもさっき、明日香ちゃんが知らない男と走り去っていくのを見て、俺思ったんだ。明日香ちゃんのこと誰にも渡したくないって。俺、初めてお店で明日香ちゃんを見てからずっと、君のことが好きなんだ。ずっと、俺の側にいてくれないかな?」
まさかの藤堂さんからの告白。
あまりの嬉しさで胸がいっぱいに溢れそうだ。
「私も、藤堂さんのことが好きです。ずっと側にいさせてください」
私は思いっきり藤堂さんに抱きつく。
藤堂さんは優しく抱きしめ返してくれた。
「明日香ちゃん……」
藤堂さんの手が私の頬に触れて上を向かされる。
吸い込まれそうな綺麗な瞳。ゆっくりと目を閉じると、柔らかな唇が重なった。
優しく穏やかで、それでいて熱のこもった口づけだった。
「ねえ、これからは俺のことは藤堂さんじゃなくて、誠って呼んでね」
「ええと……じゃあ、誠さんでお願いします……」
大好きな人の温もりが指先から伝わってくる。
これから始まる2人の未来に、多くの幸がありますように。
最初のコメントを投稿しよう!