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たとえあなたを傷つけるとしても
大きく息を吸い、ゆっくり吐き出して深呼吸する。
「健太。気持ちは嬉しいし、私も健太のことは好き。でもその好きは、幼馴染みとしての好きだから。健太に恋愛感情は持てない。それに私……やっぱり藤堂さんが好きだから。叶わない恋かもしれないけど。それでも好きなんだよ。ごめんなさい。私を好きになってくれてありがとう」
相手が真剣に想いを伝えてくれている以上、それには誠意をもって向き合わなければならない。優しい嘘は相手を傷つけることもあるし、なにより相手に対して失礼だと思う。
「そうか……悩む余地もない、か……」
「……ごめんなさい」
少しの間、健太は私を抱きしめたまま泣いてたみたいだけど、やがてゆっくりとその力は弱まっていき、熱も離れていった。
「お前ならそう言うと思ったよ。明日香、ちゃんと答えてくれてありがとな」
「ううん……」
「無理矢理連れ出してごめん。アイツもたぶんお前のこと探してると思うから早く戻れよ」
「でも健太……」
「俺のことはいいから。こんな顔お前に見られたくねぇから。頼む……今は、放っておいてほしいんだ」
「……わかった」
私は健太に背を向けて走り出した。
追い風が吹いている。
――今すぐ、あの人に会いたい。
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