この想いを届けたいから

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この想いを届けたいから

 私は来た道を全速力で走った。カフェまで戻ったけど、藤堂さんの姿は見つからない。  なぜかもう会えないんじゃないかという思いが頭をよぎる。  「藤堂さん……」  目からつぅーっと滴が零れた。  あんな風に突然いなくなっちゃったし、怒ってるかも……いや、怒って当然なことしちゃったんだ。嫌われても、仕方がない気がする。  ――嫌だ、あの人に嫌われるなんて、絶対に嫌だ!  不安と恐怖に押しつぶされそうになったそのとき。  「明日香ちゃん!」  そう声が聞こえるやいなや、後ろから強く抱きしめられる。突然の出来事に思わず固まってしまった。  「明日香ちゃん……よかった。急に男と走って行ったから……。俺すごく焦ったんだよ」  「ごめん……なさい」  「あれってもしかして彼氏?」  「違います!」  ぱっと振り返って言う。違う、私が好きなのは――。  言おうとして、口をつぐむ。そんなことを言う勇気は、私にはまだないみたいだ。  「よかった……。あのね、明日香ちゃん」  藤堂さんは真面目な顔になった。  「俺ね、明日香ちゃんより10歳以上も年が上だし、こんなこと言っても君を困らせるだけだから、ずっと自分の中で押し殺してた。でもさっき、明日香ちゃんが知らない男と走り去っていくのを見て、俺思ったんだ。明日香ちゃんのこと誰にも渡したくないって。俺、初めてお店で明日香ちゃんを見てからずっと、君のことが好きなんだ。ずっと、俺の側にいてくれないかな?」  まさかの藤堂さんからの告白。  あまりの嬉しさで胸がいっぱいに溢れそうだ。  「私も、藤堂さんのことが好きです。ずっと側にいさせてください」  私は思いっきり藤堂さんに抱きつく。  藤堂さんは優しく抱きしめ返してくれた。  「明日香ちゃん……」  藤堂さんの手が私の頬に触れて上を向かされる。  吸い込まれそうな綺麗な瞳。ゆっくりと目を閉じると、柔らかな唇が重なった。  優しく穏やかで、それでいて熱のこもった口づけだった。  「ねえ、これからは俺のことは藤堂さんじゃなくて、誠って呼んでね」  「ええと……じゃあ、誠さんでお願いします……」  大好きな人の温もりが指先から伝わってくる。  これから始まる2人の未来に、多くの幸がありますように。
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