失われた記憶

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「けど、あそこはチョリんちの敷地だぞ」 「地主ってだけで、畑にいつもいるわけじゃない」 「見つかったらヤバイだろ」 「大丈夫だって‼ 早く、バナナ取ってきて‼︎︎」 ロウは呆れ顔を作ると、「何が大丈夫なんだ、怒られるのはオレだぞ」とブツブツ言いながら、大きな布でできた袋を肩にかけ、家から出ていった。 ✳︎✳︎✳︎ 「話し方にだいぶ、たどたどしさが無くなってきたよ」 明日香を拾ってから数日が経っていた。 ロウが家へと戻ると、ユノがキッチンにいた。勝手に棚からコーヒーの袋を出して、ミルで豆を挽いている。ゴリゴリと音をさせながら、ハンドルを回している。部屋にはコーヒー豆の良い香りが漂っていた。 「おい、おまえ、なに勝手に……」 ロウは肩から下げていた袋を机の上へと乱暴に置いた。 「あっ、ちょっと。果物はすぐダメになっちゃうから、乱暴にしたらだめだよ」 「誰が、果物だって言った」 「バナナじゃないの?」 袋の口のヒモを引っ張ると、ユノが中に手を入れて黄色い物体を引っ張り出す。 「ロウってばほんと、スナオジャナイ」 「うるせえよ。それ、アスカの話し方だろ」 「アスカ、じゃないよ。明日香」 「あすか」 「ロウ、ユノ」 その声に驚いて振り返ると、寝室のドアの横に、明日香が立っていた。長い黒髪が左肩の所でひとつに束ねてあり、それがユノの腰紐だと分かる。 「明日香、発音上手になっただろ。練習してたんだ。はい、これどうぞ」 ユノがそう言いながら、バナナを渡す。 「ロウ、バナナ、ありがとう」 ニコッと笑って、バナナを受け取った。 ロウはユノから袋を取り返すと、奥から大きな紙の包みを出す。 「野菜も貰ってきた」 紙を開けると、大きなキャベツが入っている。明日香はバナナをモグモグと咀嚼しながら、明日香の顔ほどあるキャベツに目をむいた。 「わわわ、おっきい。これはどうやって食べるの?」 さらに袋の底から、ニンジンや玉ねぎを出すと、「これは、これは?」と騒ぎ立てた。 「食べることばっかり考えてんな」と、ロウが呆れた声を出す。 「煮込みスープはどう?」 そしてイスに座ると、コーヒーを淹れ終わったユノに目配せをして向かいに座らせ、「明日香も座れ」と言った。明日香はその言葉に促されて、バナナを食べながら、イスに腰掛けた。 「なあ、どうしてこうなったんだ?」
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