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バナナを取りに行っている間、ずっと考えていたことを口にする。『人人類』の人間は、この『獣人類』のエリアでは生きていけないはずだ。けれど、明日香は生きている。それがどうしてなのかを知りたかった。
「何で、あんなところに倒れていたんだ?」
ロウはユノが入れたコーヒーを一口飲んでから、そう切り出した。
「それがその……よく覚えていなくて」
明日香が手で頭をさする。もう痛みは引いたようだ。
「頭、打ったの?」
同じようにマグカップでコーヒーを口にしながら、ユノが言った。
「ん、たぶん。なんか痛いし、コブができてるから」
「デッドラインを超える時にでも、転んで打ったのかな。それとも木の枝とかにぶつけて、とか」
ここでロウが、違和感を感じた。
「でも、おまえは蔦に絡まってたんだ。例えばだ、デッドラインを超えてふらふら歩いてきたとする。それから、どこかで頭ぶつけて倒れ込んだんだとしても、あんな風にはならねえぞ」
バナナの最後の一口を口の中へと放ると、明日香は自分に差し出されたマグカップを引き寄せた。コーヒーの香りをかぐと、その顔が途端にゆるんだ。
けれど、二人の険しい顔を見ると、明日香は真剣な表情へと戻してから言った。
「……何かを、」
コーヒーを見つめる。
「追いかけていた気がするんだけどな」
一瞬、場がしんと静まり返った。
「……追いかけてきたって、何をだよ」
「んー、思い出せない」
「それを追いかけていたら、デッドラインを超えちゃったってことかな」
ユノが明日香を覗き込むようにして話しかけた。
「デッドラインって何?」
おいおい、とロウが腕を上げる。
「そんなことも忘れたのか。国境だよ、おまえらの国とオレらの国の」
「それって、日本を出ちゃったってこと?」
ロウとユノは顔を見合わせた。
「ニホン?」
「おまえらの国をおまえらがなんて呼んでるのか知らねえけど、とにかくそういうことだろうな」
そして、ここでロウが、はっと小さく息をのんだ。
「そういえば、おまえ……寒く、ないのか?」
明日香が二人を交互に見る。
「え、別に寒くないよ」
明日香が着ていた一風変わった服は、明日香を拾った次の日に洗濯をして窓際に干してある。今はロウの服を着せているが、サイズが大き過ぎてぶかぶかだ。けれど、ロウの服は、ロウが普段から着ているもので、特に厚手のものという訳ではなかった。
二人は再度、顔を見合わせた。
『人人類』の世界より、ここは気温が低いはずだ。
「なぜ、だ」
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