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異国の地
明日香は、草の生い茂る原っぱに寝転んでいた。
肌にチクチクとしたこそばゆさがあるが、時々通り抜けていくぬるい風が気持ちいい。太陽はゆるゆると暖かい光を照らし続けている。
「はあぁ気持ちいい……」
ロウとユノは学校に行くと言って、連れ立って出かけてしまった。その時に初めて、二人が学生だと知り、高校生の自分と同じくらいの歳なんだと認識した。
家の周りに出てうろうろとしても良いけれど、遠くには行かないようにと言いつけられている。
ロウの家から出てみると、周りは森に囲まれており、しんと静かだ。
明日香は寝転んだまま、腕を曲げて頭の下へとやって枕がわりにし、眼をそっと閉じた。
眼を瞑ると、途端に耳と鼻が効いてくる。草の青々しい匂いが、鼻腔をくすぐる。
けれど、そこで違和感を感じた。
(静かだなあ)
これだけの大きな森なのに、聴こえてくるのは風に揺らされてその身を鳴らす、カサカサ、ザアザアという樹々の音だけだ。
「おかしいなあ。鳥のさえずりとか、どこいっちゃったんだろ」
明日香は耳をすましてみた。しかし、やはり動物の鳴き声のひとつも聴こえてこない。
「しっかし、ここどこだろう」
辺りの雰囲気から想像すると、北欧の森のようなイメージだ。スウェーデン、ノルウェー、フィンランド……周りを囲む大木や葉を茂らせた樹木が、そんな深い森の深淵さを醸し出している。
「っても、外国って行ったことないけども。でもまさか、その外国に来ちゃったなんて、」
はあ、と一つ溜め息。
「なんか、犯罪にでも巻き込まれたんかなあ。誘拐、拉致、とか……世界的な犯罪集団にでも捕らわれたんだろか」
ロウやユノが、犯罪者とは思えなかった。助けてくれた上に、食事から何から、優しく世話を焼いてくれる。特にユノなんかは、寒くない?だのおなか空いてない?だのと、気を遣ってくれ、ありがたかった。
「国際的犯罪集団に誘拐されてそこから逃げ、追っかけられた末に命からがらここに辿り着いた、みたいな」
想像してから、そんなマンガみたいな話ないない、とかぶりを振る。
しかし、自分の身に何が起こったのかまるで分からないようなこの状況なのに、不思議なことに何らの不安も湧いてこないし、恐怖の一欠片も感じない。
獣の尻尾や耳に驚きはしたけれど、話はちゃんと通じて意思疎通が図れるし、料理も信じられないくらい美味だ。
それに、ロウとユノの二人からは、自分をいたわってくれる優しさを感じていた。
「油断させておいて、パクってことないよね……」
食べさせて太らせて、そして食べられちゃう、などと童話の世界にでもありそうなシュチュエーションは、当てはまらないような気がした。
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