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「あああ、なんで私ってば、こんなとこにいるのーー記憶はどこいっちゃたんですかあーー」
思い出そうとすると、頭のコブに痛みが走る。
「んー。でも、私、何かを追っかけてたような気がするんだよなー」
寝転んだまま、んんーーーっと、腕を上げて伸びる。
「あっ‼︎」
そこで、何かがひらめいた。
「そういえばこの国って……パスポート要らないの?」
✳︎✳︎✳︎
「なあ、絶対おかしいだろ、あれ」
「寒がらないってことはだよ、ここの環境に順応してるってことになるよね。やっぱり『獣人類』なんじゃないの?」
「はあ、なに言ってんだ。おまえだって見ただろう? おまえの耳を見た時の、あいつのあの驚きよう」
ユノの頭に耳を見つけた時のことだった。
「ウソウソウソ、ナニコレナニコレ……ナニコレー‼︎」
そして、ユノに耳元でうるさいっと怒られた。
「それに、あいつの身体には『獣人類』の特徴は見られなかった。本にも載っていただろ、オレらの尻尾や耳は『人人類』にはない『獣人類』特有のものだ。そんな証がどこにも無いってんだから、『獣人類』の訳がないだろ?」
「うん、まあそうだね。ボクも色々と明日香のあちこちを探したけど、尻尾や耳やかぎ爪なんかはひとつも見当たらなかった」
「だろ?」
と。
ちょっと待て、とロウが歩みを止めた。数歩、前へと歩いて止まったユノの耳が、ピクッと動いた。
「……なんだよ、それどういう……」
「ん?」
口ごもるユノに、ロウはたたみかけた。
「ん? じゃねえよ。おい、おまえ明日香に何した?」
「……ナニモ」
「…………」
「…………」
歩き出して横に並んだユノの尻を、ロウは自分の尻尾でピシャリピシャリと叩いた。いつもなら、鬱陶しがってオイヤメロと言ってくるのだが、今回ばかりはユノも無言を貫いている。
二人はそのまま何も話すことなく別れ、お互いの家へと帰った。
✳︎✳︎✳︎
家のドアを開けると、そこに明日香の姿がなかった。
「あいつ‼︎ どこへ行ったんだ‼︎」
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