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「あいつ‼︎ どこへ行ったんだ‼︎」
ロウは家を飛び出すと、辺りをキョロキョロと見回した。
「明日香‼︎ あすかあっ‼︎」
名前を呼んだが、しんと静まり返っていて、返事はない。ロウはいったん家の中へと戻り、棚に置いてあったナイフを腰に差した。すると、棚の引き出しが開いており、いつも置いてある備品の一部が無くなっていることに気がついた。
「なんだ、何があった?」
誰かに連れ去られたとは考えにくい。この森はなかなかに鬱蒼としており、小さい頃から駆け回っていたロウやユノでさえ、道を見失うことがある。
「明日香、」
ロウは再度、家を飛び出した。学校へ行く自分たちを追いかけたのかもしれない。そう方角を決めると、ロウは森の中へと分け入っていった。
少し行くと、直ぐに森の様子がおかしいことに気がつく。
木にロープがくくりつけられている。見覚えのあるロープだ。
「あすかあ‼︎」
大声を張り上げるが、返事はない。ロープを辿って先へと進む。そのうちに、このロープがどこへ向かっているのかの見当がついた。
歩を進める。
途中で別れたユノは、もう自分の家へと着いているはずだ。いったん家へと帰ってから、本と食料を持ってロウの家へと来る予定になっている。
ロウは、甲斐甲斐しく明日香の世話をするユノを思い出していた。
「あいつ……実は世話好きだったんだな。それにユノは人の懐に入るのがうまい」
バナナや野菜を取りに行っている間に、明日香とかなり話を進めていたようで、戸惑ってしまって何も話せなかった自分との違いを感じた。
流暢になっていく明日香の喋り方に、ユノのクセなんかを見つけると、熱心に明日香の面倒を見るユノの姿が眼に浮かんできて、困った。
ロープを手で手繰っていく。
「……明日香を気に入ってる」
ロープを握る手に、知らず知らずのうちに、力が入っていた。
✳︎✳︎✳︎
「おい、何をしてる」
後ろで声がして、明日香は驚きのあまり、身体をビクッと波うたせた。
「え、あ、ロウか、びっくりしたあ」
腰に巻いたロープが、グイッと引っ張られた。
その拍子にしゃがみ込んでいた身体が後ろへと傾き、どしんと尻もちをついてしまった。
「いったたあ」
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