記憶

2/4
前へ
/39ページ
次へ
ロウに部屋から出てくるなと言われたのを悲しく思っていると、ユノが来て慰めてくれた。 「もう怒ってないって」 「ううん、怒ってるよ。私、勝手なことしちゃったから。ロープも切れてたし……き、切れてたなんて……うっ、おバカすぎる」 ぞっと背筋が凍る。あの深い森の中でひとり迷子になったら。それは「死」を意味する。 あんな細いロープ一本だけで、これで大丈夫だと過信した自分が憎い。 「……ほんとバカだったよ。ロウが怒るの当然」 明日香が呟く。 「ねえ、ロウは心配したんだよ」 「ん、うん」 「ボクも同じ立場だったら、死ぬほど心配してた」 明日香はユノを見た。 この二人とは初めて出逢ってまだ間もないのに、こんなにも親切にしてもらい、そして情もかけてくれている。 明日香は不思議に思った。大切にされていることが、これ程にまで伝わってくるなんて、と。 「もう無茶なことはしないでね」 ユノが、その髪と同じ色の茶色味がかった瞳をじっと向けてくる。気恥ずかしい。 「うん、ごめんね」 「謝らないでいいよ。それで、明日香、訊きたいことがあるんだ。あのさ、コタローって一体誰なの? 明日香のなんなの?」 少しだけ強いユノの口調に怯みつつ、それでも慎重に答えた。事の顛末を説明している間、ユノは真剣な表情で、話を聞いてくれた。 (ユノもロウも、耳とか尻尾とか、私とはちょっと違うけど、いい人なんだな) 「あああ全部思い出したわー。私まじでバカだあ。バカなことしたあ」 毛布から顔だけ出すと亀のように丸まる。 落ち着いてくると、ため息が出た。 「はああ、ロウにももう一度ちゃんと謝らないと」 そして、もう一度、はあと息を吐いた。 ✳︎✳︎✳︎ 「明日香はね、そのコタローってのを探しにいきたいっていうわけ」
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加