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あれからもう一度折をみて謝ったのもあってか、ロウの機嫌も随分マシになったようだった。
ユノがその様子をみて、話を切り出した。
明日香も心配そうにロウを見つめている。
「…………」
「ねえ、聞いてるのか、ロウ?」
「…………」
「ロウってば、聞いてるのかよ?」
「先にそれ言えよ、」
「は?」
「獣……なんだろ、そのコタローってやつ。それ先に言えよ」
この時点で図書室から拝借した本を熟読していたロウは、『人人類』の人間が、『獣獣類』の獰猛でない一部の小動物を環境に順応するよう改良し、ペットとして飼っていることがある、という知識はあった。けれど、それが明日香に当てはまるとは思いも寄らなかった。
(おまえが、恋人かもなんて、余計なこと言うから……勘違いしただろ)
ロウがユノをギラリと睨む。そんなロウの視線を無視すると、ユノは呆れた口調で言い返した。
「……そんなに心配してたんなら、直接明日香に訊けばいいのに」
「し、心配なんてしてねえ!!」
「じゃあ、探してあげようよ。『獣獣類』の国に行ってみよう」
「……は? ってか無茶言うなよ。獣の国になんか入ったらオレらが死んじまう」
その言葉に反応したのか、明日香の身体がぐらっと小さく揺れた。
「それにどうしてそいつが『獣獣類』の国にいるって分かるんだよ。もしかしたら、ここにいるかもだろ」
「でも、犬って獣の一種なんだから、ここじゃ生きていけないでしょ」
「けどよ、明日香だってここで生きてんだから、コタローってのもここで生き延びてる可能性はあるだろ」
「……うん、まあそうだけど」
「どっちにせよ、あっちに足を踏み入れた瞬間におだぶつ決定だぞ。まずは、ここら辺を探すのが妥当なんじゃないのか」
「先生に、訊いてみようか」
「シモン大師にか? おまえ、頭おかしくなってんな」
「なんだよ、それ」
「生きた人間がいるなんて知れたら、大騒ぎになる。それに、噂を聞きつけて明日香が『人人類』の国に連れ戻されるかもしれないだろ」
ユノが、明日香を見る。
明日香は、心配そうに二人のやり取りを見ている。ロウとユノが同時に何かを言おうとしたところで、明日香が慌てて口を開いた。
「あのね、あのね、もう死んでるの」
二人が明日香を見ると、明日香は両手をぐっと握り込んでいて、微かに震えている。
「……もうね、死んでるの。ごめんね、迷惑かけられないから、ちゃんと話すよ」
明日香が顔を上げた。
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