天国

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「なんだなんだ、ユノ。おまえのそんな顔、久しぶりに拝ませてもらったぞ。進級試験以来じゃないか? はははっ」 「いえ勉強のことじゃなくて申し訳ないんですけど……バナナケーキのレシピを教えて欲しいんです。確か前に、先生の奥さまが作ったケーキを持ってきてくださいましたよね」 「え、ああ。あいつはそういうのが趣味だからな」 「奥さまに、レシピを貰えるようお願いできませんか」 「ああ、いいぞ、頼んでみる……が……ユノ、まさかおまえが作るのか?」 ユノがニコッと笑って、カバンから一枚の紙を出す。 「もちろんボクが作るんですよ。あ、これ、授業のアンケートです」 「ああ。それにしてもなんだ、急に? 彼女でもできたか?」 「あはは、まあ、そんなとこです」 ユノの言葉にぎょっとする。ロウは、おい、もう行くぞと言って、ユノの腕を引っ張った。 「じゃあ、先生お願いしまーす」 ようやくシモン大師から離れると、ロウはユノへと抗議の声をあげた。 「どういうつもりだよ」 「バナナケーキを明日香に作ってあげたいと思ったんだけど」 「急に、バナナだなんて、怪しまれるだろ」 『獣人』は、草食類だ。野菜や果物を好んで食べるのだが、果物の中でも、バナナはとりわけ人気がなく、ほとんどの獣人が敬遠する果物の一つだ。 ロウやユノだけでなく、ねっとりとした舌触りと独特の匂いがだめだという者も多い。けれど、その栄養価は果物の中ではずば抜けて高く、高栄養食品の一つに数えられている。 シモン大師の妻は、そんな嫌われもののバナナを美味しく食べられるように調理し、時々生徒へと食べさせようと、大師に持たせてくれるのだ。 「先生の奥さんは料理上手だし、明日香はバナナが好きだから……」 ユノが少しの動揺とともに、言い訳をする。 「……大丈夫、別に怪しまれてないと思う」 ユノが安易にそう結果を導いたことに、ロウは少しだけ腹が立った。が、そんなことより。 「まあいい。それより、あの本の作者の自宅が分かったって、本当なのか?」
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