天国

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「あ、うん。偶然、見つけたんだけどね。本ってさ、奥付ってあるじゃない? 作者の紹介だったり、発行日だったりするページ」 「ああ分かる。だいたい最後のページに書かれているだろ。でも、あの本は、その部分が切り取られていたじゃないか」 「そうなんだ。けれど、切り取られた部分が、本文の途中に挟まっていたんだよ」 「え? そんなの、気がつかなかったぞ」 「小さく折り畳まれていたから気がつかなかったんでしょ」 ユノと会話しながら肩を並べて歩く。 「でも作者の住所なんか、普通は書いてねえだろ」 「そうなんだ。まあ、住所はさすがに書いてはいなかった。けど、この本は昔、学校の授業用の教本として書かれたもので、当時は教師や生徒からの質問を自宅で受けていたらしいよ」 肩と肩がトンと軽く当たった。 「やけに詳しいな」 ロウが眉をひそめた。 「図書室で調べた。『教育史とその変遷』ってのに、ちらっと載ってたんだ」 「いつの間に……」 ユノが言葉を重ねる。 「でね、その著者がね……聞いてビックリするなよ。なんと、シモン大師なんだよ」 「…………」 「……え、驚かないの?」 「驚いたよ。でも、おまえがビックリするなって、」 「はあ?? 面白くないなあ、もう!!」 「バーカ……ってかユノ。おまえ、それでバナナケーキのレシピなのか?」 「うん、まあね。レシピについて質問があるって言えば、先生の家に訪ねていくキッカケにもなるかなと思ったんだ。それに、明日香はバナナが大好きだから、一石二鳥ってね」 つい最近までは、ただただ頼りない先輩だと思っていたのに。 (先輩っていうより、ダチっていう感覚だけどな) 「行くだろ?」 「ああ、もちろんだ」 ロウも力強く、答えた。
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