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「なんだ、これ……は、」
大木と大木の間には、植物の蔦が絡まっていて、蜘蛛の巣のように網目状に広がっている。露に濡れ、所々で水滴が光を含んでいる。
そんな光景が広がる一角。
ここはロウとユノが小さい頃によく遊んだ、森の中でも比較的、日の光が差す明るい空間だった。
「これは、いったい……」
蔦が張り巡らされている場所に、「人」が絡まっている。がくりと、こうべを垂れているので顔はよく見えない。だが、心もとない蔦のせいで、身体全体がゆらゆらと揺れ、さも生きているかのように見えるのだ。
ロウは、一種異様な光景に一歩、後ずさりした。肝が冷えた、背筋が凍るとはこのことなのか。
(こりゃ気弱なユノじゃ怖くて確かめられねえはずだ)
森を彷徨っているうちに、迷い込んでしまうのだろうか。
実は三国間の国境、デッドラインは地図上のものであって、実際の地形上では明確にはされてはいない。
注意喚起の立看板もないし、立入禁止の柵もない。
道を知らない者がそのまま迷い込み、知らず知らずのうちに絶命してしまうのが、この世界の日常茶飯事なのだった。
ロウは、蔦に絡まっている『人』を再度、見た。
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