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黒く長い髪。
その頭にユノのような耳はない。そして、ダラリと蔦に絡まっていて上へと上げられた腕は白く細く、その先にシモン大師のような獣の爪も生えていない。
(尻尾は……見えない、けど)
ユノが言うように、『人人類』の人間でまちがいなさそうだ。そうであればもう、息ひとつもしていないだろう。
ロウは、じりと足を数歩前に出し、近づいた。
近づくと、落ち葉や枯れ枝を踏む音が、パチリパチリと小さく鳴った。足元で弾けるささやかな音を感じながら、警戒心とともに歩を進めていく。
ある程度いったところで、「人」が女だと分かった。
白色の服の所々に黒のラインが入り、胸には朱色の光沢のある布が、ぐちゃりとぶら下がっている。その服が、その白い肌を一層に浮かび上がらせていた。
ロウは自分の日に焼けた浅黒い肌との対比を感じざるを得なかった。
(とりあえず、)
腰に差していた小さなナイフを取り、絡みついている蔦を切る。
ロウが蔦を切ると、ぐったりとしている小柄な身体が、さらにゆらりと揺れた。
長い黒髪がさらさらと流れる。
最後のツルを切り、その束縛から解放されると、女はガクッと身体を倒した。
ロウはナイフを腰へと戻すと、近づいて覗き込んでみた。
(死んでる、よな)
手を伸ばして、頬にかかる髪を払いのけようとした時。突然。
唇がひらいて何かの音を発した。
「うわっっ」
ロウは驚き、後ずさった。もう少しで尻もちでもつきそうなほどに。
再度、女の唇が動き、言葉が鳴った。
「オナカスイタ……シニソウ」
今度は聞き取れた。が、意味は分からない。ロウは慌てて、「人」を抱き起こした。
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