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「……うそ、ある」
「マジか、あるな」
ロウとユノ、同じくらいのその背丈は、『獣人類』の中ではスラリと高い方で、学校の中でも目立っている。そんな二人が、図書室の広大な本棚の前に立つ。
背の高い二人が、さらにその長い手を伸ばして、本棚の一番上にある同じ目的の本を取ろうとしている。
『ひと……んーせっしょ?』
背表紙に書いてある題名。その題名の部分は何か刃物のようなもので削られていて、読めない。けれど、眼を凝らすとその削られた部分の横には、小さくフリガナが振ってあり、それはどう読んでも『人人類との接触』だった。
「……この消し方、ちょっとおバカだね」
「ああ、同感だ。マヌケにも程があるな」
先に本を手にしたユノが、表紙をめくると、薄茶色に変色した紙が、カサカサと音を立てた。インクなのか、紙なのかの香りがほわっと鼻腔をつく。それだけで、この本が相当古いものだと分かった。
「目次を見てみろ」
横から口を出すロウが、ユノの肩越しに顔ごと覗き込んでくる。ユノの耳がロウのウェーブのかかった黒髪でくすぐられ、ピクピクと揺れた。
「分かってる!」
ぶっきらぼうに返してから、ページをめくる。そこには、第一章から第十三章までの見出しが書いてある。
『第一章 人人類の起源』
一見すると難解な言葉で始まっている。どうやら専門書のようだ。
『人人類について、その起源は次の二つの説が有力視されている……』
「ちょっと待て、前のページに戻せ」
ロウが本に手を伸ばす。ユノは取られまいと慌ててページを戻した。
『第二章 人人類の特性、……』
「あ、これだ、これ」
ユノが先に指を指す。
『第三章 人人類の生態』
「これに書いてあるんじゃない? 何を食べるのか、とか何が好きなのか、とかを知りたいんでしょ」
「違う、あいつはなんでも食うからそれは良いんだ。それより、どんな生き物なのか分かんねえ?」
「どんなって言っても……ちょっと待って、」
ユノが指で目次を辿っていこうとすると、後ろで「おい、」と声がして、二人はビクッと身体を震わせた。振り返ると、担任のシモン大師が立っている。
「おまえら、何してる」
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