獣人の証

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シモン大師は、ロウからユノへと、ギロリと視線を這わせた。ユノが後ろ手に隠した物に気づいたようだ。 「ユノ、ロウ。おまえら何を見ていた?」と凄む。 シモン大師は、何かにつけいつも二人に声を掛けてくる。それは親のいない二人を気遣ってということもあるが、努力家であるユノと天才肌のロウの、それぞれの才能を腐らせてはおけない、そう思うが故のことだ。 悪巧みをしないようにと、首根っこを押さえられているという意識はあったが、二人は気に掛けてくれるシモン大師を父親のように慕っていた。 「せ、先生、」 横で狼狽えるユノを見て心でチッと舌打ちを打つと、ロウは被せるようにして言った。 「歴史の授業で疑問に思うことがあったので、調べていました」 すかさず、リュックから教科書を取り出す。ユノとシモン大師の間に割り込んで、開けた教科書をずいっと出した。 「ここ、なんですが……」 尻尾でユノのヒザを軽く、ピシリピシリと二度叩く。 専門用語も交えたロウの質問が気に入ったようで、シモン大師も乗り気になって説明を始めた。 その後ろでこっそりと、ユノは本をカバンへと滑り込ませる。そして何事もなかったように、本棚を漁る振りをした。 その後、シモン大師は何事もなかったように、図書室を出ていった。 「はああ、危なかったな」 「スゴイよ、ロウは。あんな込み入った質問、すぐに思いつくなんて」 「いつか、先生にぶつけてみようと思っていた質問だ」 ユノは、授業中、先生と討論しているロウを思い出した。学年は違うが、歴史など全学年での合同授業もある。 時々、師弟で自論を戦わせているのを、周りの学生は呆気に取られて見つめていた。 ロウが学年一いや学校一頭が良いことは、皆も認めている。ユノはそんなロウに追いつこうと、必死で勉学に励んだ。 家への帰路につく二人。肩を並べて歩く。 「さっきの本を貸してくれ」 ロウが手を出す。ユノがカバンから本を引っ張り出して渡すと、パラパラとページをめくり始め、続きを探す。 『第四章 人人類との接触』 「見ろ、これ」 ロウが指し示す部分を、ユノが声に出して読む。 「『こうして、我々獣人類は人人類との接触に成功した。彼らは我々の言葉を理解していないし、その点は我々も同様なのだ。人人類の研究の第一人者であるナスダリ博士によれば、その事実は人人類の世界で、我々獣人類についての研究が一切なされていない証拠となり得る、との見解を示している』……ってことはさ、やっぱ意思疎通ができないってことなんだよね」 「ああ、でもオレが拾ってきた「人」は、オレの言うことを理解しているようなんだ。それがどうしてなのか不思議で仕方がないんだが、」 「ん、どうしてだろうね」 ユノが両腕を上へと伸ばして、猫のような大欠伸をする。と、途端に頭が冴えたようで、ユノの顔つきが変わった。 「でもこれ、発禁本ってことだよね」 ロウが、削られた表紙と背表紙を指でなぞる。
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