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起き上がると体の節々が痛んだが、部屋の中を調べてみたいという好奇心の方が痛みをはるかに上回り、僕は足を引きずりながらソファーから降りた。
部屋の中を歩き回り、小物などを手に取ってみる。いくらここが自分の部屋ですよと言われても、既視感やなつかしさといったものを全く抱くことができず、初めて恋人の部屋に遊びに行ったときのようにそわそわと落ち着かなかった。
部屋の中は整理されていたが、モデルルームのようにまるで生活感がない。本当に僕はここで生活を送っていたのか疑問を抱きたくなる。
ふと目に入ったカーテンを勢いよく開くと容赦ない太陽光が僕のことを照らした。目をあけることができず、僕はその場にしゃがんだ。
「何してるの!」
女性はカーテンを閉めて僕の肩に触れる。
「大丈夫?」
「ちょっと太陽の光にびっくりしただけです」
目を覆っていた手を外すと、思ったより女性の顔が近くにあって驚いた。距離感に耐え切れず顔を背ける。女性は優しく僕の背中をなでた。
「そのうち慣れるわ。外に出たいんだったら一緒に行ってあげるから」
僕が黙っていると女性はサングラスを持ってきて僕につけた。少しほほ笑みながらカーテンを開け、その勢いのまま窓も開けた。みずみずしい風がレースカーテンを吹き上げる。スローモーションで僕の目に焼きついたその光景に不思議と懐かしさが込み上げ、どうしようもなく窓の外を見たくなった。
女性に導かれながら窓の縁に腰を下ろし、足を外に出してぶらぶらと揺らしてみる。
「いい天気ねー」
と、隣に座る女性が言った。サングラス越しでも外の景色は少し眩しい。目の前にはそれほど大きくない木々が悠然と立ち並び、その隙間から先程の艶やかな風が吹いてくるようだった。
「周りを散歩してみたいです」
「うん。行きましょ」
女性がどこからともなく持ってきたサンダルを素直に履き、両腕を支えられながら一歩ずつ外へ出た。心地よい木々のざわめき、鳥のさえずりとそれに負けないくらい大きな音をかき鳴らす小さな虫たち。土と雑草が混じり合ったにおいが鼻を突き抜け、鋭い太陽光が僕の皮膚をちりりと痛めつける。僕の五感を刺激するすべてを自分の中に取り込みたくて深く深呼吸をした。
女性はおもむろに日傘を開き、背伸びしながら僕の頭上を覆った。
「相合い傘だね」
屈託なく言うもんだから恥ずかしくなって何も言わずに日傘から出た。女性は少し悲しそうな顔をしたが、すぐに笑顔を作り直し僕を先導するように前を歩いた。
僕の家とやらは林の中にぽつんと建っているようで、周りには他に家らしきものはなかった。玄関の前には女性のものと思われるかわいらしいフォルムの車が止まっていて、直感的にここは人里離れた場所なんだろうなと思った。
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