未来の追憶

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
『憶えているだろうか、君達は。』 サァァァァァ… 『此処ではない、かつての地球を、私のことを…』 誰もいない空の下で、私の声だけが流れて行く。 《ーーー何を…言っているのだろうな…私は…。》 そんな者、この地球には存在しない。 全て、終わったのだ。 私が滅び、新たな「地球」として目醒めて、どのくらい経っただろう。 私は、地球と呼ばれる星の「意志体」だった。 「地球」とは種の名前であり、私の名ではない。 其処で生きていた人間は、その事を知らない。 「地球」という星が、私意外にも在る事すらも。 目醒めてまだ、そんなに時は過ぎていないのに、私はもう未来を憂いている。 早すぎる成長、変化。まるでかつての地球のようだ。 また終わりが来る。それは必ず。 崖の下の街という囲いの中で、小さく行き交う影を見下ろす。 似てはいても、かつてとは違う。 今の、この地球の人間達。 ガサッ… 大きく木々の葉が揺れ響く。 一人の青年が、私の方へと向かってくる。 一冊の本と、大きなスケッチブックを抱え、彼は私の隣に広がる大きな樹に背を預けた。 傍らの本のあるページを開き、暫くして、彼は思い深く呟いた。 「…不思議なもんだなーーー。」 私に言ったのではない。 彼に見えているのは、私の先にある青空と緑の世界だけ。 そして彼は独り、言葉を続ける。 「私が描いた絵と同じような世界を書く人がいたなんてーーー驚いた。けどなんか嬉しいな。」 彼は目を閉じて、懐かしむように語る。 「…此処とは違う、別の地球があった。そして、他にも地球は存在している…。いつか…行ける時が来るのかな…私が描いたこの星も、まだ在ったらいいな…。」 そう言って彼は、スケッチブックを開き、天へかざした。 《ーーーーー!!》 私は、目を見開いた。 其処には、小さな青い花が幾つも重なり広がっていた。 そよぐ風の音すら聴こえてきそうな、瑠璃唐草の世界。 そう、かつての地球に在った花。 懐かしく美しい景色。 そして、この地球には存在しない色。 全て滅びたもの。 ーーー何かが、 遺っていたのかもしれない。 どこかで。 それは無意識に現れて、おそらく人間が気付くことは無いだろう。 偶然だった。 彼らも、私の時も。 目の前で、今の景色に、かつての景色が混ざり会う。 切なくも、嬉しいと想った。 彼らにとっては、何気無い時であっても。 私は、 この軌跡を憶えて行く。 荒んだ未来の予感に、爽やかな風が吹く。 映ることの無い姿のまま、私は本の主と、花を咲かせた彼に願った。 そしてどこかで、同じように何かを視ている誰かにも。 透明な声を響かせて… 『君達も、いずれ終わり、また始まるだろう。それがこの地球であっても、違う別の星であっても。 だがどうか、 憶えていてくれ。 この瞬間のようにその世界を、 ーーーどこかでーーー。』
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!