未来の追憶

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『憶えているだろうか、君達は。』 サァァァァァ… 『此処ではない、かつての地球を、私のことを…』 誰もいない空の下で、私の声だけが流れて行く。 《ーーー何を…言っているのだろうな…私は…。》 そんな者、この地球には存在しない。 全て、終わったのだ。 私が滅び、新たな「地球」として目醒めて、どのくらい経っただろう。 私は、地球と呼ばれる星の「意志体」だった。 「地球」とは種の名前であり、私の名ではない。 其処で生きていた人間は、その事を知らない。 「地球」という星が、私意外にも在る事すらも。 目醒めてまだ、そんなに時は過ぎていないのに、私はもう未来を憂いている。 早すぎる成長、変化。まるでかつての地球のようだ。 また終わりが来る。それは必ず。 崖の下の街という囲いの中で、小さく行き交う影を見下ろす。 似てはいても、かつてとは違う。 今の、この地球の人間達。 ガサッ… 大きく木々の葉が揺れ響く。 一人の青年が、私の方へと向かってくる。 一冊の本と、大きなスケッチブックを抱え、彼は私の隣に広がる大きな樹に背を預けた。 傍らの本のあるページを開き、暫くして、彼は思い深く呟いた。 「…不思議なもんだなーーー。」 私に言ったのではない。 彼に見えているのは、私の先にある青空と緑の世界だけ。 そして彼は独り、言葉を続ける。 「私が描いた絵と同じような世界を書く人がいたなんてーーー驚いた。けどなんか嬉しいな。」 彼は目を閉じて、懐かしむように語る。 「…此処とは違う、別の地球があった。そして、他にも地球は存在している…。いつか…行ける時が来るのかな…私が描いたこの星も、まだ在ったらいいな…。」 そう言って彼は、スケッチブックを開き、天へかざした。 《ーーーーー!!》 私は、目を見開いた。 其処には、小さな青い花が幾つも重なり広がっていた。 そよぐ風の音すら聴こえてきそうな、瑠璃唐草の世界。 そう、かつての地球に在った花。 懐かしく美しい景色。 そして、この地球には存在しない色。 全て滅びたもの。 ーーー何かが、 遺っていたのかもしれない。 どこかで。 それは無意識に現れて、おそらく人間が気付くことは無いだろう。 偶然だった。 彼らも、私の時も。 目の前で、今の景色に、かつての景色が混ざり会う。 切なくも、嬉しいと想った。 彼らにとっては、何気無い時であっても。 私は、 この軌跡を憶えて行く。 荒んだ未来の予感に、爽やかな風が吹く。 映ることの無い姿のまま、私は本の主と、花を咲かせた彼に願った。 そしてどこかで、同じように何かを視ている誰かにも。 透明な声を響かせて… 『君達も、いずれ終わり、また始まるだろう。それがこの地球であっても、違う別の星であっても。 だがどうか、 憶えていてくれ。 この瞬間のようにその世界を、 ーーーどこかでーーー。』
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