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あの夢を――想いを、以心伝心と呼んでいいのかは、わからない。だけど、なぜアスカの心が私に伝わったのかだけは、もうわかる。
恨みとか無念とか、そんな歪んだ願望じゃなくて。アスカはただ託したかったんだ、生きられなかったぶんの想いを。自分の半身に。
「啓。信じて。アスカは私で、私はアスカなの。だから啓も、もう自分を責めるのはやめて。そんなことをしても……誰も救われない」
啓は私から手を離すと、喉を鳴らした。
「……あすか、俺は」
「前を向いて生きよう、啓。アスカのぶんまで幸せにならなきゃ」
そう笑いかけると、相手は眉をぎゅっとよせて横を向いた。やがて目を真っ赤にしながら、折り目正しく頭を下げる。
「ありがとう」
私はうなずいて深く息を吸った。
なにか解き放たれた気分だった。
優しく響く波音が、心と身体をときほぐす。凝り固まった悲しみが洗い流され、泡となって消えていく。
(ねえアスカ、海だよ)
呼びかけてみても、胸の奥で応じる声はもうない。
そうか。共鳴して、魂を溶け合わせて。私たちは今、ようやく一つになれたんだ。
目の前の海は宝石のように青く煌めき、かつて衛星から見た地球と同じくらいに美しかった。
了
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