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結局、父は啓によって警察に拘束され、裁判にかけられて有罪判決を受けた。父が刑務所を出られるのは何年も先――そして私はマスコミや世間の好奇の目を避け、遠縁の田舎に引っ越してきたのだった。
「今更すぎるわよ、啓」
私は目の前に立つ啓を見つめる。
父は過ちを犯した。ふれてはならぬ神の領域に両手をさしいれた。
それでも私にとって父は父だ。だから啓のとった行動を理解できても、許すのはきっと、とても難しい。
「手を離して」私は思い切り腕を引く。「啓と話すことなんて、もうなにもない」
「俺にはある」しかし啓は頑として掌にこめた力を緩めなかった。「頼む。どうか逃げないで聞いてくれ」
いやだ、聞きたくない、と私は首を振った。だって、いつかこんなふうにもう一度、啓に会うのが怖かった。会って、自分の本当の気持ちに向き合うのが。
だけど今、腹の底から、ほとばしるように切実な想いが湧き上がってくる。
――あなたが、好き。
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