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ああ、と私は瞼を閉じる。あんなひどいやり方で信頼を裏切られたにもかかわらず、私はまだ啓を思い切れない。
砂を噛むような気持ちで身をよじり、ふと息を飲んだ。
(嘘。この人の手、震えてる…………!)
その瞬間、アスカの声が胸の奥で囁いた。
――あすか。お願いだから、彼の話を聞いてあげて。
「……俺はアスカが好きだった。生涯一緒にいたいと思える存在だった。でも、守ってやれなかった……」
なすすべなく立ち尽くす私の前で、やがて魂を絞り出すように、啓が言葉を紡ぎ始める。
「そのアスカが地球で生きている。知った時、どうしても一目会いたくて、やめたほうがいいってわかってたのに、俺は君の前に立ってしまった」
だけど、これほどまでになにもかも、アスカと同じだなんてな。正直言って緒方博士に殺意を抱いたよ、と啓は喉で笑った。その目尻に透明な涙がもり上がる。
「しかも博士に復讐するために近づいたはずだったのに、気づけば俺は……たまらなく君にも惹かれてしまってた」
啓は唇をゆがませて呟いた。
「このままじゃ、死んだアスカに申しわけがたたない。だからあの時、俺にはああするしか方法がなかったんだ」
私は深く息を吐いた。わかってる。啓の心には、今でもアスカが棲んでいる。そんな不器用なあなただからこそ、私も啓を好きになったんだ。
「あすか。これだけはどうしても直接、会って伝えたかった。俺は、全身全霊で君を愛してる。恨んでくれていい、俺を愛してくれなくてもいい、ただ側で君を見守らせてほしいんだ。もう二度と、大切な人を失いたくないから」
「……勝手なことばかり、言わないでよっ」
私は啓を見上げてようやく口を開いた。
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