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「馬鹿じゃないの。それで啓は満足なわけ?」
「……」
「啓。私、アスカが死ぬ場面を、毎晩のように夢で見てるの」
私は唖然とする啓をにらんだ。
「アスカは本当にあなたが好きだった。だから一人残して逝くのが辛くて、苦しむあなたを、どうにかしてあげたくて。そんなアスカの気持ちを見せつけられるたび、私だってこんなふうに啓を好きでいたい、好かれたいって、嫉妬で狂いそうになって――」
「あすか……何、言ってるんだ」
私は腹の奥に力を入れて息を吐いた。
「今までずうっと、苦しかった。どうしてこんな悪夢をくりかえし見なきゃいけないのって。最初は私、総合失調症かなにかで、自己像幻視を見たんじゃないかって思ったの」
「……」
「アスカの正体がわかってからは、彼女のこと調べたし、無念を抱いたまま死んだ幽霊に取り憑かれているのかも、とか。わけもわからず怖かったけど……」
今まで抱えこんできた闇を吐き出すと、少し肩から力が抜ける。
「今日、啓に会って、やっとわかった気がする」
私はしばし口をつぐんだ。波の打ち寄せる音。潮の香り。ひなびた淡い春の光が、啓を守るように暖かく包んでいる。
「不思議だけど……肉体が死んでも、魂や心まで一緒に消えてしまうわけじゃないのよね。私はアスカの魂の叫びを、この身体で受け止めた。生きたいっていうアスカが今、自分の中にいるのも、感じてる……」
私達、元は一つ。だからもう、アスカもひっくるめて全部が今の私なんだと思う、と意を決して言ったら、啓は深い衝撃を受けたようにぼんやりと私を見つめた。
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