Doppel~ふたつの私~

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* 朝四時半。手早く着替(きが)えて鏡を確認する。広い(ひたい)に切れ長の瞳。(うす)くそばかすの浮いた鼻、白い(ほお)、口角の上がった唇。二十七になった、これが今の私だ。 階下の作業場ではもう朝の仕込(しこ)みが始まっていた。パン生地を()る機械が回転し、発酵器より(あわ)い湯気がたつ。オーブンからはパンの焼ける(こう)ばしい(にお)いが(ただ)っている。 「……おはようございます」 十畳ほどの室内に入室するなり、今日も丸めと(せい)(けい)お願いねと声をかけられた。作業に入りほどなく、暗かった窓の外が明るくなってくる。 と、外で自転車の止まる(きし)んだ音がした。 「ちょっと、あすか」 オーブンの具合を確かめていた(さえ)おばさんが()り返りもせず私に言った。 「用事、聞いてきて。おおかた観光ガイドのお手伝いだろうけど」 はい、と軽く返事をして手袋を()ぎ、裏口の扉を開ける。すると、はたして小太りのおじさんが自転車にまたがったまま、おはようと片手を上げた。役場の太田さんだ。 「あすかチャン。今日また、いいかなぁ」 「……案内ですか?」
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