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「……よく日本人は寝が足りてないって聞くけど、どうやら噂は真実らしいな」
その時、悪夢の呪縛を解いたのは、対面で放たれた低い声だった。
私ははじかれたように顔を上げた。
「あっ、あなた新人さん?」
そうだった。今日は月に本社を置く提携先から、エリート社員が出向してくる日だったような。
「よろしく、高木啓だ。第七植民衛星出身。しっかし、ひどい顔だな」
向かい合わせの席に座っていた啓は、そう言って握手を求めてきた。
「肌色が死人みたいだぞ。目に光もない。おまけに姿勢が悪い。そんな状態でまともに仕事ができるのか、緒方あすか研究員」
遠慮のない物言いにかちんとし、言い返そうとして、私はふたたび総毛立った。
嘘でしょ。まさに今朝、悪夢の中で慟哭していた青年が目の前にいる。
(やだ……なんなの?)
瞠目すると、相手の鋭いまなざしがふっと和らいだ。
「面倒だからって、朝食は抜くなよ。低血圧なんだろ?」
熱を帯びた視線は、久しく会えなかった恋人に再会したみたいにつややかで、何かを訴えるように強い光を宿していて。
胸がどくんと鳴った。
どうして? 初対面なのに、あなたは私を、昔からよく知っているみたい――。
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