Doppel~ふたつの私~

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* その夜、実家に留まった私は、夜半に(のど)(かわ)きを覚えて二階の部屋から()()()のまま階下に()りた。 そして見てしまったのだ。 薄暗(うすぐら)い父の書斎で、もみ合っている二つの影。ぶ厚い絨毯(じゆうたん)の上には、論文が大量に散らばっていた。最初は物取(ものと)りが(しん)(にゆう)したのかと警察を呼ぼうとしたけれど、(ののし)りあう声は両方、聞き覚えがあるものだった。 だから(ふる)える指で、私は部屋の(あか)りをつけた。 「なにをしてるの、父さん、(けい)。やめて!」 叫ぶなり、影たちはたちまち(こお)ったように動きをとめる。 わけがわからなかった。 父は(ぼう)(ぜん)と私を見つめながら、なんで起きてきた、と(つぶや)くし、(けい)は父を()めつけるばかりで、ちっとも私を見ようとしなかった。 「なに。これは、どういうこと?」 「あなたは()(きよう)だ、()(がた)(はか)()」 けれど(けい)は、ぞっとするほど冷ややかな視線で、父を()(かく)するのをやめなかった。 「俺のアスカ(・ ・ ・)は、あなたみたいな狂科学者のせいで死んだんだ。いいかげんに観念(かんねん)しろ」 「啓……?!」 あっけにとられ、私は父を見る。それでも父はまだ座りこんだままでいた。 「あなたが話さないなら、俺が話そう」 いらだちを(あら)わに、(けい)が立ち上がる。 「あすかも、真実は知っておくべきだ」 それから私は硝子(ガラス)が砕け散るように、(けい)と育んだ幸せが(まぼろし)なのを理解したのだった。
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