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――ねえ啓、覚えてる?
それは、何度もくり返される同じ夢。
どしゃぶりの黒い夜、冷たくなっていく恋人を抱きかかえながら、啓が絶叫している。
『アスカ――!』
二人は赤と紺の制服を着ている。場所は第七植民衛星のスラム街。
あの日、宇宙警備局の捜査官だった啓とアスカは、三年越しに及んだ潜入調査にようやく終止符を打てるはずだった。なのに植民衛星における臓器売買の実態を突き止め、状況を月支部に報告した矢先――突然、闇ブローカーが雇った殺し屋から銃撃を受けた。
――私は覚えてる。全部。
この口いっぱいに広がる、鉄錆のような血の味も。問答無用で身体を覆いつくす死の気配も。
アスカの絶望が心に響いてくる。
――いや。どうしてこんなところで? 誰か助けて。嘘だと言ってよ。私は生きたい、まだ一緒にいたい……啓と!
だけどもう、言葉を吐く力はなくて。
だからアスカは、死にゆく我が身をゆだねるしかなかった。どうしようもない怒りと悲しみに震える啓の腕に。
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