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序章
小さい時からお手伝いが好きな子供だった。
別にえらいこと、すごいことをしている気はなくて、当たり前のことをしていると思っていた。物心がついたころには、両親と祖父を喜ばせたいということが理由に変わった。中学に上がって父が亡くなったころから、家事は完全に俺の仕事になった。別に苦ではなかったし、慣れない仕事で昼夜疲労している母親を助けたいと思う気持ちが強かった。
でも、時々思っていた。
俺は不幸なのではないか、と。
_さ、…はし、……
_ささ、はし……さ、ん!!
「笹橋さん!!」
はいっ、と情けない声を出して起き上がる。顔を上げると、顔をしかめた警備員が立っていた。
「今日はノー残業デーでしょ?終業時刻から30分も過ぎてるよ、精を出すのもいいけどこっちも仕事だからねぇ…」
「す、すいません、すぐ帰ります」
俺はよだれをぬぐって、急いで帰る用意をする。寝始めてからかなり時間がたっていたようだ。警備員は帰った、帰った、と言って、迷惑そうにしていた。
帰路の途中、今日はおかしな夢を見たな、とぼんやりと思う。徹夜明けで疲れていたのが、会社で居眠りするのは初めてだった。まぁ、お疲れ様、俺って感じだ。
ようやくマンションに着き、ただいまー、と言って、ドアを開ける。
____は?
まず最初に目に入ったのは、ぶち抜かれた壁。そこから出てくる大量のゴミ袋。しかも、緑やら茶色やら謎の物体やらが散乱している。人に自慢できるほどきれいに掃除されていた俺の部屋は、見るも無残な姿になっていた。
「え」
「あ、すいません~」
間延びした声で大量のゴミ袋がしゃべった。いや、違った。ゴミ袋からひょっこりと顔を出した隣人だ。
「実はー炊飯器が爆発しちゃって~」
は、は?炊飯器?爆発?は?
「弁償しますんでー、あれ?笹橋さん?」
最後に見たのは、隣人の足元を走るGだった。
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