多分、日常

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多分、日常

 都内某所。すぐそこにオフィス街が立ち並ぶ一等地。  そこに全くもって場違いなアパートがある。  いまどき過疎地域でも見ないようなトタン板の屋根。錆びつき風でギシギシと音を立てる階段。ところどころひびの入った壁。  信じられないが、信じたくないが、これが俺の新しい入居先なのである。都内の一等地でこの家賃。覚悟はしていたが、想像以上にくるものがある。俺はため息をつきながら、そのアパートに近づく。ブロック塀におそらくこのアパートの看板であろうものが立て掛けられている。なんだこれ、小学生が書いたのか?八…一…、読めねぇ。 看板の小学生のような字と格闘していると、後ろから声をかけられた。 「八百井荘になんか用?」 振り向くと、くわを持った短髪の男が立っていた。多分、大家さんか?思ったより若いな。ていうか、これ、八百井荘って読むのか。全く読めなかった…。 「あ、笹橋です。〇〇会社の紹介で…」 「…こっち」 男はぶっきらぼうにそういうと、アパートの一室に入っていく。俺は慌ててついていった。 「これが、あんたの部屋の103号室の鍵。」 「はいっ」 ひょいっと鍵を投げられる。可愛い犬のマスコットがつけられていた。 「かわい…、あっ」 つい、声を出してしまった。すると大家はじっと俺を見て、こう言い放った。 「…それ、俺が作った。」 「へっ、すごい!手芸得意なんですか?」 「うん、趣味程度だけど。」 俺が感嘆の声をあげながら、犬のマスコットと大家を見比べる。 「ちょっと大家さんに似てるかも…」 「…ふふ、何それ。面白いね、あんた。笹橋、くんだっけ」 「あ、すいません、失礼なことを」 「下の名前。」 「はい?」   「下の名前、何。」 「大和ですけど…?」 大家は有無を言わせぬ口調で言ってきた。なんだかこの強引な感じ、見覚えある気がする。 「大和、俺の名前、蘭 仁志(あらき ひとし)。好きに呼んで」 「あ、はいっ、仁志、さん…でいいのか?」 「…よし。俺はここの大家をしてる。ここ101号室に住んでるから何かあったら言って」 少し強引さもあるが、思ったより優しそうな人で良かった。俺はよろしくおねがいしますっ、と勢いよくお辞儀した。すると、仁志は俺の頭をなで始める。 「…!?何を?」 「…え、頭差し出してきたのはそっちでしょ。大人しくなでられといたら」 またもや、この強引さにやられてしまった。仁志はひとしきり俺の頭をなでると、「〇△牧場の豚のトニーと同じ毛並み…」と評価した。親切でいい人なのだろうが、仁志が独特の感性を持っているのは間違いなさそうだ。
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