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どこからともなく、スパイスの利いたあの匂いがする。食欲をそそる、あの、肉がごろっと入った…。そうか、今日はカレーか………。
「っておいっっ!!!」
「あ、起きた」
細身の金髪眼鏡男、仁志さん曰くイズミという奴が勢いよく起きる。急に寝言を言い出したと思ったら、すぐに起きて、一体何なんだ。せっかく、俺が丹精込めてカレーを作ってるっていうのに。
「は?どこ、ここ?って、ええ、うわ、仁志…くぅん…」
「おはよ、イズミ。滞納分どうなってんの」
「いや、それは違うじゃぁん…、あ、そうだ、今度店の割引券あげるからさぁ~ね?」
「いらない。それより、早く…」
イズミと仁志の会話はよく聞こえないが、なんだか知り合いのようだ。俺はカレーが焦げないようにかき混ぜる。結構いい匂いになってきた。仁志さん家の冷蔵庫にあるあり合わせのもので作った割には美味しそうに出来たのでは?
そう心の中で自画自賛していると、二人は何かに白熱しているようだった。
「早く財布を出せ」
「ひえっ、そ、そんな怖い顔しないでよぉ、ここは平和的に…」
「なかったら、通帳を早く出せ」
「待って、早まらないで!!そう、家からとってくるから!!」
「え、二人とも何してるんですか?カレー出来ましたよ?」
ガチャガチャ、と玄関で話していた二人は気の抜けたような顔をして、俺を見た。イズミは少し引き攣った笑みを浮かべ、仁志は少しムッとした顔をする。
「…大和」
「食べないんですか?」
「…食べる」
「え~、お呼ばれされちゃっていいのかな?迷惑じゃ、」
「はい?めっちゃ迷惑ですけど?アンタには色々言いたいことがあるんだよ!!カレーはついで!!!」
ふん、言ってやったぜ。イズミは胡散臭い笑みを少し歪め、俺の顔をジロジロ見てくる。
「何?早く座れよ」
「大和、もう食べていい?」
「あ、いいですよー仁志さん」
俺はもうすでに食べ始めている仁志の横に座る。すると、イズミはするりと俺の目の前の席を陣取り、カレーには見向きもせず、にこにこと俺に笑いかけてきた。イズミはさも心当たりがないような口振りで、そう言った。
「なぁ~、料理男子くんー、その俺への用事って何~?」
「は?」
今まさに口に入れようとしていたカレーがスプーンから落ちる。
「なんか、彼女の浮気とか僕知らないからぁ、いちいち寝た女の名前とか覚えてないよ?」
イズミ___改めこの金髪眼鏡クズ野郎は、頬杖をつきながらヒラヒラと手を動かす。俺は我慢ならず、机を勢いよく叩く。
「はぁああ?お前が浮気したんだろっっっ!?!」
「あーあー、そんな大きい音出さないで?被害妄想も大概にしてよぉ。だから、女にフラれたんじゃね?」
コイツ、言わせておけば…!!
「いや、ちげぇし!!?お前の浮気のせいでなんか逞しい女の人に殴られたんだよっ!今日の12時ごろっ!!」
「え、12時??」
金髪眼鏡クズ野郎はかわい子ぶったように手を顎に添える。
「あーーーーーー、思い出した!!!
カリカリ梅が来た時に僕の腕挟んだ奴!!!」
「そこじゃねぇぇだろ!!?お前が俺を別れる口実に使ったんだよ!!」
「え、何それ。どういう妄想?ちょっと無理なんだけど…」
「だぁーーーーーっっ、そういうことじゃない!!」
俺はクズの都合のいい頭にかなりの殺意を抱く。クソっ、こんなに話の通じない人間は久しぶりだ。そう思い、頭を抱えていると、
ダアアァァアァン!!!!
カレーが宙を舞った。
「は」
「は、はぁぁああぁ?!!アツイッッ!!アヅッ!!」
「カレーが冷める。イズミ、大和。
このカレーめちゃくちゃおいしい。」
「あ、ありがとうございます??????」
「バカッ、ア、アヅアヅッ!!!」
イズミは目に涙を浮かべながら、半ば強引に口元に押し付けられたカレーを押し返そうとする。そんなに熱いのか???
「イズミ、お前、カレー大好きだって、この前女にいってたよな。喜べ、カレーだぞ」
「チ、チガッ、ってアヅッ!!!モガァアアァ!!!」
「あ、ゆ、ゆっくり食べましょうよぉ……」
「ん、なんて?」
仁志は本当に聞こえていないのか、聞こえているのか、分からない声色でそう返す。
こ、この人…。怒らせたダメなタイプだ…。
今日一日で一番ためになったことかもしれない。
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