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彼女は少し考えたあと、口を開いた。
「その少年は、どこにでもいる、ありきたりな少年でした。
真面目に勉強して、大人の言うことをきいて、真面目に育った少年。
ところが少年は、怨霊となって、今も彷徨っているのです」
「それ、何の話?」と、問いかけるのを、慌ててやめた。
口を挟まないのが約束だ。
ふっと彼女は笑った。
「他人事だと思ってるでしょ」
彼女の指が、僕の後ろを指差した。
「ほら、いるよ、そこに」
振り返ろうとした俺を、何かが突き飛ばした。
よろめき、倒れた俺をまたいで、彼女が走り去ってゆく。
あとに残されたのは、尻もちをついた俺と、地面で哀れに跳ねている、小さなメダカだけだった。
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