憎い

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憎い

「…俺なんかでよければ、全然いいよ」 「…ありがとー陽介」 陽介なら断らない。 そう確信した上での相談だった 「じゃーな、宇野」 「ばいばーい」 「…宇野ちゃん、俺いつでも相談のるからね」 「ありがと陽介、部活頑張ってねー」 「ありがとー」 「………帰ろ」 あいきが好きだ 最初はヤンキーだと思ってて、でも話してみたら案外良い奴で 彼女がいて、やることやっても純粋に見えるのが不思議で いつの間にか、あいきに惹かれてた 惹かれるようになって、気づいた あいきが目で追うのは、陽介だってことに 陽介は良い奴だ いつも笑顔で話を聞いてくれる あの優しさに毎日充てられていれば誰だって落ちるだろう  だからこそ、陽介が憎い 顔や体に惚れたっていう方がまだ許せる 俺が誘惑して取り返すことができるから 『俺、陽介のこと好きなんだよね』 『笑顔が可愛くて…見てると好きだなってなる』 『誰にでも優しくて…一緒にいると癒やされるんだよな』 『陽介と、その…そういう関係になりたいんだけど…どうすれば距離とか縮められっかな…』 その口からでてくる言葉の一つ一つが俺を傷つけた だって可愛らしい笑顔とか、分け隔てなく振り撒く本心からの優しとか 俺には持ち合わせていないから 鏡の前で毎朝練習する作り笑い。計算して作った笑顔が可愛くなるわけない 打算的に振り撒く優しさが、相手の心を癒やすわけない 少なくとも、優しさを与え続けるなんて俺にはできない 「そういう関係になりたい…ねぇ」 俺だってお前とそういう関係になりたい でも気づきやしない その笑顔で、その声で、その心で、俺を殺しに来る 俺はお前を殺せない だから、お前の好きな相手を殺したい 『宇野ちゃん…』 『…俺なんかでよければ、全然いいよ』 陽介は気づいてないんだろう 自分が誰を好きなのか 俺が相談をしたときの、驚いたような…それでいて、少し悲しそうな顔 あいきが惚れたのとは違う、無理に口角を上げたような笑顔 その表情が、誰を好きなのか物語っている 「…そだ、久しぶりにアイツんとこ行こうかな」 陽介はきっと、あいきの好きな人を俺だと思ってる 動揺していたのも、俺があいきの好きな人を知っているからってだけなのに 「………あ、もしもし?久しぶり………あーごめんって。今から行っていい?…いやーちょっと楽しいことがあってさ、気分がいいからヤりたいんだよね……うん、じゃー着きそうになったら連絡するから」 陽介はいつ自分の恋心に気付くんだろう できることなら、早く気付いてほしい 告白がしたいのにできない…そんな俺の苦しみをお前も味わえばいい 俺からあいきを奪ったお前が、死ぬほど憎いから
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