11人が本棚に入れています
本棚に追加
フラグを折る前によく考えよう
昨夜。
一度に5人から告白された圭は、帰宅後椅子を回転させながら悩んでいた。
一体誰を選べばいいというんだ。
幼なじみと一緒に登校してたのも、
角で毎朝のようにぶつかるのも、
バレー部エースがしょっちゅうクラスをのぞきにくるのも、
クラスメイトがやたら好意的に漫画の貸し借りをしてくれるのも、
部活の先輩からやけに絡まれるのも、
友達感覚でいた。
全部全部、僕のことを好きだったからなんて。
「あーどうしよう……」
もちろん皆好きだ。でも彼女として選ぶなら一人。誰かを選ぶということは、他の4人を選ばないということだ。
ウンウン唸っていると、自室のドアがノックされた。
「圭兄、ちょっといい?」
千春だ。
血の繋がらない妹。
肩までのサラサラの髪にカチューシャをつけている。兄バカフィルターを差し置いても可愛い。
「志緒里から、昨日皆告白したって聞いて……大丈夫?混乱してるんじゃない?」
「頭の中ぐるぐるしてる」
「気持ちがぐちゃぐちゃ~ってやつだね」
「話聞いてくれるか?」
「いいよ」
「ありがとう!さすが俺の妹!」
両手を合わせて感謝のポーズ。千春は俺が悩んでいる時、話をよく聞いて整理してくれる。相づちをうってるだけなのに答えを導き出してくれる。すごいやつだ。こんな子が俺の妹でよかった。俺は本当に周りの人に恵まれている。
千春はベッドに腰掛けた。
「誰か選ばなきゃいけないと思うんだ。皆真剣だったし」
「うん。まず一花姉ちゃんのことはどう思うの?」
「正直、幼なじみとしてしか見れないかなぁ。親戚みたいな……真琴は可愛いって言ってたけど」
真琴とは、俺の親友の佐倉真琴のことだ。背が高く、運動神経抜群なのになぜか帰宅部。部活動から引く手あまたなのに図書室窓際の席で勉強してる姿をよく見る。
「双海先輩のことは?」
「うーん、ぶつかってくるし、よく話しかけてくる面白いやつだけどな。真琴と話してるときになんか胸がざわってなるんだよな。うまく言えないけど」
双海のことは、真琴が「新人女優のFに似てるよな」とつぶやいたことがあった。タイプなのかと聞くと否定されたけど。それから二人でいるところを見ると胸がざわざわする。
「ん?いまなんか引っかかったけど、美鶴先輩のことは?」
「そうだな……」
元気がいいし、明るい。いや、皆性格はいいのだ。美鶴も志緒里も唯月先輩も。
「なんか批評してるみたいで気が滅入るな……」
「でも、誰かを選ぶってなると比べるしかないんじゃない?」
「うーん」
でも、5人の誰かと恋人として歩く姿はどうしても想像できなかった。
「えーとね、じゃあ質問変えるね。5年後、一緒にいたいのは誰?」
5年後。上手く行けば大学生。今よりもっと自由な日々。
「まだ想像つかないよ……」
考えていると「じゃあもうちょっと具体的にするね。5年後も一緒に桜を見たいのは?」
「そんなん、真琴一択だろ」
言っておいて「あ」と思う。
「ごめん、5人から選ばなきゃいけなかったのに」
「うん……でもさ、それって、そういうことなんじゃない?」
「え?」
「私の思い違いじゃなければ、圭兄、佐倉先輩のこと恋愛の意味で好きなんだと思うよ。佐倉先輩もたぶん、圭兄のこと」
「…………」
「知ってる?図書室の窓際の席って陸上部よく見えるんだよね」
最初のコメントを投稿しよう!