サスティナブル・ラブ

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とうとう… 〈恐れていたもの〉が来た。 メールボックスから取り出した白 い封筒の裏に「寿」のシールが貼 られている。 「聡(さとし)? 僕だ。 摩耶さんとの式の招待状、 受け取ったよ…」 『ああ、友弥(ともや)… なんて声だ。 何が心配って? 僕は何も変わらないよ。 むしろ、これで友弥とは 大っぴらに逢えるさ。 …ここ? 摩耶との新居だ。 結構ゴージャス。 夜景がいい感じ… 友弥、なぜ〈おめでとう〉って 言ってくれないかなぁ』 由緒ある都内の結婚式場にはメデ ィアが押し掛け、カメラのフラッ シュが絶えまなく焚かれて… 〈恐れていた日〉は過ぎて行った。 『友弥? ハネムーンから 僕だけ独りで帰国したんだ。 摩耶はマネージャーと 合流して、 今、中東。 これからフレグランス市場に 参入するからマスカットに 寄るって。 ハハッ、フルーツじゃないよ。 マスカットは地名だ。 ねぇ友弥、泊まりにおいでよ。 どこにって? もちろん…』 だって、友弥 大事なのはふたりの時間で 場所じゃないでしょ? 耳障りのいい聡の言葉に、僕は抗 えない。 清潔で匂いのないワードはすべす べしてる。 舌が二つに別れた生き物の肌みた いに。 夫婦の新居は、 レジデンシャルホテルの ようだった。 「夫婦というより、君ら姉弟に 見えるな…それも双子の…」 「だろ!あちこちでよく 言われる。似合いというより 似過ぎたカップルだって…」 「聡が女の子だったら摩耶さん みたいになってたのかな…」 「けど、そしたら友弥も 摩耶も 僕に関心を持ってくれなかった」 ──ますます 洗練されて行く恋人… 「僕ら、結婚式を間に半年も連絡 取り合ってなかったね。友弥と 遊ぶの久しぶり…」 「いや…聡、これは…」 「『これは不貞だ!僕たち別れる べきじゃないのか?』だろ? 友弥のエシカル (倫理上の) 志向、 聞き飽きた」 「だって…聡は摩耶さんを 愛してるんだろ? 愛してる からこそ結婚したんだろ?」 「もちろん! 摩耶は、読モ (読者モデル)から個人ブランド 〈MAYA〉を立ち上げて、今や 20代で社長だ。年収は億単位。 ガーリーファッションデザイナー として尊敬してるよ」 「聡は僕とのことで摩耶さんを 裏切ってるとは思わないの?」
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