思い出

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 男の話は続く。 「でも、自分の覚えている初めての祭と、彼女の話す祭とが、どうも違ってて……」  付き合いを始めてから、たしかに彼は祭に行ったらしい。学校の後、近くの広場であった祭に立ち寄ったのだ。  待ち合わせていったのでもない。派手な催しがあったわけではない。  しかし、彼女の思い出の中にあるそれは、町を上げての大きな祭で、祝日に開催されたものだった。それが正しいとなると、付き合い始めた前になってしまう。確かにその祭にも行ったが、二人で行ったわけではない。  そのため、混乱しているのだという。 『ねぇ、覚えてる?』  黒樹は、椅子に深くもたれて彼の話を聞いていた。 「話は終わったかな?」 「はい」 「では……」  興味がないというように目を伏せて、黒樹は、その手を斜め後ろにいた楓に向けた。 「専門家からの意見をどうぞ」 「えー、俺から言うのー?」 「邪魔したんだから、それなりに働いてくれる?」  楓は、気が重いと呟いてから、真面目そうに見える男に結論を伝えた。 「捜さないほうがいい。彼女は多分、あんたとの時間を楽しんでるし、あんたも楽しんでる。あとのことは、あんた次第だろ?」  男は、目を見開いてぽかんとした顔で、楓の言葉を噛み締めていた。  それからゆっくりと笑顔になり、さわやかに「はい」と答えて、テーブルにお代を置いて去っていった。  扉についている鈴が、リンと心地よい音色を奏でた。  
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