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「私の探しモノ、なかなか見つからなくて……」
そう言って、ここを尋ねてきた彼女は、窓から差し込む月明かりに照らされ、ため息ばかりついている。
そんな彼女の前にハーブティーを置く。彼女はティーカップの取っ手を持ち静かに口へと運んだ。
「月がとても綺麗ね。こんな気持ちだからなのか、色んなことを考えてしまうわ」
彼女はティーカップをソーサーの上に置き、小さく息をつく。
「例えばどんなこと?」
彼女に尋ねると、彼女は再び月に目をやり切なげに応えた。
「月はこんなに綺麗に輝いているけれど、太陽の姿はどこにもない。昼間の太陽も自分はここにいるぞとサンサンと照りつけているけれど、そこに月の姿はない。月と太陽はお互いに探し合っているけれど見つけることができない、出会うことができないのよ……。私の探しモノと同じ……」
少し間を置いて部屋の電気をつける。窓には彼女の姿が映し出され、月明かりが消える。
「それはどうかな?」
テーブルを挟んで彼女と向かい合う。自分用に持ってきたマグカップを口へ運び、空に浮かぶ月を見ながら彼女に語りかける。
「確かに、この地球のこの場所から見ると、月と太陽はお互いを見つけることができないし、出会うこともできない。けれど、宇宙から見ると彼らは既にお互いを見つけていて、ずっと一緒にいる」
彼女は自分が映る窓から空を見上げる。
「あなたの探しモノが『物』なのか『者』なのかはわからないけれど、視点を変えれば案外近くにあるかもしれないし、見つかるかもしれないね」
彼女は、ハーブティーを一口飲み
「そうね」
と、穏やかに微笑んで言った。
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