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人は見かけによらないと言うが、僕の知る限りそれに当てはまらない人が一人居る。
まぁ許容範囲内だろうと思われる事も、彼にとってはそうではない。
まず、許容する、しない以前の話で、彼の中でマイルールがあるのだ。
小さくて華奢な彼の見ている世界、考えている物事は常軌を逸していて、僕でもたまに手に負えない時がある。
好きな時に仕事をして、好きな時に寝て、好きな時に食事をして、……という恵まれた生活を産まれてからずっと許されてきた、世間では俗に言う甘やかされたダメ人間だとレッテルを貼られるだろう。
しかし彼は自由だ。
良い意見も悪い意見もどちらも聞かない、とにかく他人の助言を受け入れないマイペースさと頑固さには脱帽の域である。
ソファに腰掛けて、難しい顔で朝のニュースを見詰めている彼の名前は、志。 志と書いて、「ゆき」と読む。
ご両親はどういう経緯で、誰しもがパッと見で呼ぶ事の出来ない名前なんか付けたのだろうと、僕は彼の本質を知るまで不思議で仕方無かった。
「ゆーさん、オレンジジュースとコーラとコーヒー、あとヨーグルトの用意が出来ましたよー」
「ん〜ありがと〜」
「ヨーグルトにはすりおろしたりんごを入れてありますからね」
「ん〜どうもどうも」
僕がお盆にのせて運んであげたそれらを、毎朝順番に平らげていくゆーさん。
まずはヨーグルトに手を付ける。 そのあとはコーラ、オレンジジュース、コーヒーの順でお腹を満たし、食後の余韻も味わわずにテレビを消して書斎にこもる。
僕が高校の制服に着替えて戻ってくると、案の定もうそこには居なかった。
お盆の中身すべてが綺麗に無くなっていて、空のグラスが三つと器が一つ、スプーンはグラスに突っ込まれた状態でそのまま放ったらかしにしてあった。
毎朝の事だ。
「……毎日あれで飽きないのかなぁ」
食器を洗いながら、独り言が漏れる。
ゆーさんの中ではたくさんの決まり事があって、僕はそれに半年かけて順応していった。
離れたくなかったから。
彼の思考を、見る世界を、僕も共感したいと思ったから。
こだわりが強いゆーさんは、買い物さえまともに行かないし、そもそも出来ない。
インターネットをフル活用して生活していたらしいから、今までよく独りで生きてこれたなと度々思う。
寝起きのままボサボサな髪は、裕福な彼のご両親が他界してからというもの、伸びてきて鬱陶しくなったら自分で切っていたという。
いつも色気のないスウェット姿で、僕と出会う前からたくさんの人が居る前にでも平気でその姿のまま出て行こうとしていたらしい。
注意して見てやらなければ何日も水だけで生活するし、変な食生活や偏食も重なってすぐに病気をする。
雑だな、と思う前に、彼の人間性を予め知っていた僕はすべてを知ったあとも「でしょうね」だった。
僕の生活能力は普通だ。
けれど博識だとは思う。
本ばかり読んでいた僕の内気な心が燃え上がってしまった根源というのが、何を隠そうゆーさんとの文字上での出会いだった。
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