視線の先

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「ねぇ、覚えてたりするの? 眠っていた間のこと」  看護師さんが晴樹(はるき)の血圧を測定するのが終わる(いな)や、私は質問した。 「それがさ、眠っているって感じじゃないんだよな。なんていうか、意識はハッキリしないのに感覚がある……起きてるのに体は動かない、みたいな」  晴樹はその感覚をうまく言葉にできないみたいだ。それがもどかしいのか、怪我をしていることを忘れて頭を掻こうとする。 「包帯が巻いてあるからだめ!」 「あ、ごめん。でも頭掻くくらい大丈夫だろー……?」  私の気持ちなんて知らずに、晴樹はいつもの調子で笑う。 「大丈夫じゃない! だいたい私がどれだけ心配したか──」  最後まで伝える前に、目から涙が流れてしまった。晴樹の様子を看ていた看護師さんが、泣いている私を見て晴樹に注意をする。 「こら、彼女さん泣かせちゃダメじゃない」 「ちがっ香蓮(かれん)は彼女じゃ……」 「彼女じゃなきゃなんなのよ。彼女、毎日お見舞いに来てたのよ。まぁ、これだけ話すことができたら大丈夫でしょ。私は先生に報告してくるから」  看護師さんはそう話すと、銀色のカートを引きながら病室を出ていった。   「……ごめん晴樹、なんか看護師さんに変な勘違いさせたみたい」 「いや、いいよ。俺、どれくらい寝てたんだ?」 「丸々一週間」 「マジかぁ……。心配かけてごめん」 「ううん、目を覚ましてくれて本当に良かった」 「ありがとうな。ところでさ、さっきの話しの続きだけど」  私の胸がドクン──と脈打つ。さっき感覚はあるって言ってたし、もしかしたらあのこともバレてるのかも知れない。 「お前さ、俺が寝てる時にキスしてなかった?」  晴樹のその言葉に、私は自分の胸の熱が耳まで広がっていくのがわかる。 「は、はあ⁉ してないわよ!」 「なーんか、唇にそんな感覚が残ってるんだよなぁ」 「晴樹、やっぱり起きてたでしょ⁉」 「ほら、してるんじゃん」  晴樹は意地悪そうな顔で私を見る。ああ、もうバカ! でもその意地悪そうな顔が、いつだって私の胸をときめかせる。 「それは晴樹がずっと眠ってたから……、ほら、白雪姫でもあったじゃない!」 「それならする方が逆だろ。今度は俺がしてやるからな」 「──え、それって……?」
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