コロナ渦中の闘病日記 −24,術後1日目−

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コロナ渦中の闘病日記 −24,術後1日目−

午前8時前に目が覚める。 朝食はなく、昼食から食事がはじまるらしい。睡眠導入薬と麻酔がまだ残っているのか頭がぼーっとする。 手術をした実感があまりないと思ったが手足に力が入らず、呼吸をするたびに胸の傷がうずく。  ああ、本当に心臓を切り裂いたんな。 後日、手術内容をK外科医から説明された。 心臓を守る胸骨はチタンという素材のホッチキスのようなもので7カ所止められている。埋込なので再度取り出す必要はない。助かった、二度と開胸手術はしたくないぞ。ただし、極端なダイエットで骨が細くなってしまうとチタンがずれてしまうので気を付けて下さいとのこと。はい、注意します…。  幸い機械弁や生態弁に取り換える必要はなく、弁形成で僧房弁を修復できたので本当に良かった。僧房弁に張り付いていた病巣は約1,5センチの大きさでどこぞの深海生物のナメクジのような…。気持ち悪い物が弁に張り付いていたとは。 弁を引っ張るパラシュートの紐のようなものはGORE-TEX(ゴアテクックス)に交換された。そして、加水分解しない弁輪が僧房弁に固定されている。最小の人工物が心臓に埋め込まれているとはいえ、暫くワーファリンという抗凝固剤を飲まなくてはいけない。 さて、術後に戻る。 忘れもしない驚愕の昼食をご紹介しよう。 200グラムのおかゆ、白身の焼き魚、ホウレン草のお浸し、野菜の煮物、そして味噌汁。 吐き気がする。これらを食べろと!?うーわー。スパルタだー。 目を見開いて食べたくないと首を横に振る私に、看護師は困った顔をした。 いやいや、昨日心臓を開いたばかりですから無理だよっ! 無言で抵抗していると管理栄養士がすっとんできた。 「ゼリーもあるよ?アイスもあるけど食べる?」 何とかして食べて貰おうと管理栄養士も必死だ。 急遽野菜ジュースとゼリーが出てきた。お腹も空いていないし、結局半分も食べられなかった。 点滴から栄養を取るより、口から直接栄養を摂取した方が体力が速く体力の回復も早い。わかってはいるが無理なものは無理。 これから手術を受ける方がいたら、病状や術後の経過にもよるが、仮にいきなり食事が出てきても無理して食べなくて大丈夫。吐いてしまう可能性も十分あるので無理なら代替品を出して貰えますから。 やっと昼食を終えぐったりしていた。 食道をゼリーの欠片が流されるたびにずきずき痛い。強めの鎮痛剤も飲んでいるが麻酔がきれてきたので昨日の比でないくらいズキズキ痛い。 大人しく横たわって安静にしているしかなかった。 午後1時。一人の看護師から、外科に空き部屋が出たので戻ると言われた。 は? えーっと、術後ICUに24時間もまだいないし、戻っていいの? きゅっ、急変したら?ってか私は今どうなっているんだ?容態が安定してきたってこと? 戸惑いをよそに着々と外科に戻る準備がされていく。 これも後日聞いた話だが、K外科医の配慮で外科の個室のほうが静かで落ち着けるから、機械音で賑やかなICUより良いだろうと移動になったそうだ。 とはいえ、外科の個室が空くのは夕方くらいで、それまではICUから外科の一番高い個室(VIPルームのような部屋?一泊数万する)に一時的に移り、それからスタッフステーションのすぐ近くの個室に移るそうだ。 そのときのICUの病床が満床なで、重症の患者を受け入れられない状況だった。酸素の補助機器が外れ容態が安定した私には外科に早く戻って欲しいICU側の意向もあったようだ。    13時30分にストレッツチャーに乗せられ外科へ連れて行ってもらった。勿論一人で動けないので看護人4人がかりで「せーのっつ」ずりっ…。ストレッチャーへ移動した際に、悲鳴を上げそうになった。ひー、身体中に痛みがっ。上に掛けられた毛布を両手て握りしめなんとか耐える。 エレベーターで外科に昇り、広めの個室にあるベッドに移る際も看護師4人がかりで移動させてくれた。あああ、帰ってきた…。静かで広い部屋だ。 窓から太陽が見えた。2日も外科に離れていないのに太陽の光が眩しくて、そしてほっとした。 太陽は偉大だ。痛いとかもうどうでもいいや。 半ば自暴自棄になっている私の顔をK外科医と外科の看護師、執刀を担当したM外科医など諸々の医療従事者が心配そうに覗き込んでいる。 どうしてそんな心配そうな顔をしているのだろう? 「私は大丈夫です」 驚いた。声が出ない。空回りした空気が喉の奥からひゅっと出るだけで、結果口をパクパクさせているだけだ。 意識があるのに、身体がついていかない。 戸惑い、葛藤するのは予兆に過ぎないとことのときの私は知る由もなかった。 夕方、スタッフステーションのすぐ近くの個室に移り、その日は特に検査もなく終わった。尿管が入っているのでトイレに行くこともなく、というか激痛で動けないので横になって寝ているほかなかった。   夕飯はゼリーのみ。自力で食べられないので看護師が少しずつ口に運んでくれた。介護されるの嫌だな。自分で食べたいな。 術後とはいえ、術前まで当たり前のようにできた行動ができなくなることに戸惑い、落ち込んだ。お礼を言いたくてもかするような声しか出ない。 治るのかな、元の生活に戻れるのかな。 不安を抱えたまま術後1日目は静かに過ぎていった。  
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