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「あんたに振られて、傷心のはずだしね。
今がチャンスよっ」
くけけけけけけっ、と笑い出しそうな郁美は缶コーヒーを強く握っていた。
だが、日子は知っていた。
社食の入り口には、同じように缶コーヒーをつかんだ羽根が立っていることを。
逃げて、星野っ、と思ってしまったが、よく考えたら、星野にとって、そう悪い話でもない。
いやまあ、寄ってたかって苦手な甘いコーヒーを飲ませようしてくるところが問題か。
ブラックあげた方が喜ばれると思うんだけど……と思いながら、日子はサーモンたっぷりの海鮮丼を食べる。
「嫌ですね~、もう」
と笑顔でスマホをいじっている裕子が口を開いた。
「社内にも社外にも、いいイケメンはたくさんいるじゃないですか。
お二人で星野さんを争わなくても~」
「ちょっとっ、三人で東城さん争ってるあんたに言われたくないわねっ」
三人……。
あの社長令嬢、諦めたんじゃなかったのか、と思いながら、日子は裕子に訊いてみた。
「ねえ、さっきからなに見てるの?」
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