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放課後、こっそりと岡くんのあとをつける私たち。
……断じてストーカーなどではない。
ひとえに岡くんの声を聞きたいがための行為なのだ。
「私は人魚姫と同じクラスになるのが二度目なの」
「そうなんだ。一年のときから声を聞いたことないの?」
「ないね。新学期ってさ、出席番号順に自己紹介するじゃん?みんな口答だったんだけど、人魚姫だけ黒板の前まで行ってチョークで事細かに自己紹介していた」
「なんか……なんて言ったらいいかわからないけど、すごいね。岡くんらしいと言えばらしいけど」
「でしょ!」
うんうん。私たちは深くうなずきあった。
「南だから言うんだけどさ。誰よりも人魚姫の声を聞きたいのは私なんだよ」
「え。それって」
「彼女になればって前に言ったでしょう?」
「うん」
「彼女になりたいのは、私なの」
隣を歩く真知ちゃんの表情は真剣そのものだ。
やだ。笑顔で、応援するよ、って言うべきところなのに言葉が出てこない。
真知ちゃんは演劇部でも役者をやることの方が多い。
演技が上手いっていうのもあるけど、何より華がある。
対して私は照明係。
嫌ってわけじゃないけど、常に裏方だ。
やっぱり、私は海藻なんだな。
「あ!」
「え。何、何?!」
「見失った」
「あれ。本当だ。いない」
さっきまで、後ろ姿が見えていたのに今は人混みのせいか見当たらない。
「あー、仕方ないか。どっか寄ってから帰ろう」
「う、うん」
ちゃんと笑えているかな?
まだ、動揺している。
真知ちゃんなら岡くんにぴったりだと思う。
思うのに、その言葉が言えない。
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