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「ほ、ほら!妹かもしれないし!ね?」
「妹と腕組んで歩く?」
よく見れば確かに腕を組んで密着している。
醸し出す雰囲気は家族のそれではない。
「女友達とかさ!」
「そんなわけないじゃん!あんなの誰が見たって彼女でしょう!下手な慰めはやめて……よ。何で南が泣いているの?」
「え?」
例えば、こういうとき、物語の人魚姫ならどうするんだろう。
やっぱり、声を失った状態で涙だけ流すのかな?
嗚咽も漏らせないのかな?
よく考えたら、私はちゃんと人魚姫の童話を読んだことがないからわからない。
岡くんは筆談でやり取りをしている。
女の子は笑顔だ。彼もまた。
彼女になっても声は聞けなかったんだね。
答えがわかってさ。良かったじゃない。
私は声を探していただけなんだから。
ーー本当に?
「ねえ、真知ちゃん」
「ん」
「私、岡くんのことで嘘をついた。私も真知ちゃんと同じ気持ちだよ」
「うん」
「探していたのは声なんかじゃなくて、素直に告白する勇気だったのかも」
「うん。そうだね」
人混みに消えていく二人を、私たちは見ることしかできなかった。
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