十七

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  「あらあらぁ、大丈夫? 九条君……」  カッターナイフをキチキチと鳴らしながら、橘が九条に近付いていく。その様子を、猶も窓際で見守る伊勢は、その瞳を微かに潤ませた。 「もうやめろよ……」  彼女の呟きは、警報音によって呆気なく掻き消される。しかし橘の耳には届いたのか、彼女は怪しげな笑みを湛えたその顔を伊勢の方へ向けた。 「う……く……」  九条は言う事を聞かぬその体を無理矢理に動かして、四つん這いの状態になる。しかし、橘はその直ぐ後ろに迫っていた。  振り返らぬままに、九条は禍々しき気配を背中に感じながら、何とかその場から逃げようと、震える手を前方へ差し出す。そこでまたバランスを崩し、再び書籍だらけの床に転倒した。  
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